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「そろそろ話してよ、律花」
昼休み、教室で向かい合ってお弁当を食べていると痺れを切らしたように里桜が言った。
「…何を?」
私の言葉に、里桜が小さくため息をつくと声のトーンを落として言った。
「赤下とのことだよ、もしかして“あの時”のことまだ根に持ってるの?」
「・・・」
“あの時のことって何のこと?”
・・・なんて、里桜にしらばっくれたところで、あの時のことを口にされるのがオチだ。
思い出すと心がキリキリと痛み出すから、もう思い出したくもない“あの時の”―――――。
「…別に?関わりたくないだけだよ」
無表情にそう言いながら、私は箸をすすめる。
「ふーん…。まぁ、それはわかるけど。」
里桜が同感だとあっさり頷くから、私は少し意外で顔を上げる。
里桜の目線は私ではなく、教室でクラスの男子とワイワイやりながらお弁当を食べる頼の姿をとらえていた。
「あいつ、人気らしいよ。あのルックスだし。今朝の発言も、注目されてたもん。」
「“今朝の”―――…って?」
「律花のこと、呼び捨てで呼んでたし、“待ってたのに”とか言ってきてたでしょ?あの時、クラスの子たち気にしてこっち見てたもん」
「マジで…」
(面倒事には巻き込まれたくない…)
里桜につられて、私も一瞬だけ頼をチラリと盗み見た。
確かに背も私よりはるかに高くなっていて、声も低い。
あの頃の面影なんてほとんどなくて…まるで全く知らない男の人みたいだ。
(確かに、モテるんだろうな。というか、中学でもモテてたのかな…。)
いつからあんなに背が伸びたんだろう?
いつからあんな声になったんだろう?
いつからあんな…性格になってしまったんだろう?
(―――んな事気にしてどうするの…バカじゃん。)
「・・・私には関係ないよ」
母が作ってくれたお弁当を食べ終えて片付けながら、私はそう言った。
――――まるで自分に…言い聞かせるみたいに。
と、その時。
「青島さん」
名前を呼ばれて顔をあげると、見知った顔がそこにあった。
「田端くん」
多分私はいま、ホッとした表情になってる。
―――同じクラスの田端真くんは同じ中学出身。去年も同じクラスで、委員会も同じ。
普段目立たないタイプの彼は、私と同じだから話しやすい。
「青島さん、日直だよね?先生が五時間目の配布物持っていくの手伝って欲しいって」
田端くんが言った。
「分かった。ありがと。」
行ってくるわ、と里桜に言いながら席を立った私に田端くんが声をかけてくれた。
「あ、重いだろうから俺も行くよ」
私は振り返って田端くんに笑顔で答える。
「ありがとう田端くん。でも大丈夫だから」