28
「さっき、私と赤下のこと睨んでなかった?」
ホームルームが終わってすぐの休み時間、私の席までやって来た里桜が言った。
「はぁぁ…っ!?そ、んなわけないでしょ」
「ふぅーん」
私の机に頬杖をついて、何やら愉しそうに上目遣いで見つめてくる里桜の美しい眼が・・・逆に怖い。
「それより、香織が…頼のこと気に入ってるんだって。里桜、あんまり頼に近づかない方が良いよ?」
何かを見透かされるような、そんな危機感を覚えて私は目を逸らし、ついでに話もそらす。
「へぇ~、香織ちゃんが、ねぇ?」
意味深に呟いて、里桜が私の反応を窺うように覗き込んでくる。
「な、なによ?」
喧嘩でも売られたかのように、私は不貞腐れた顔で里桜にそう訊ねると、キレイに整えられた自分の爪を眺めながら里桜が素っ気なく答える。
「べーつにぃ?“本当は律花の方が嫉妬してたんじゃないのぉ?”とか思ってないよ?」
「はぁ?なに言ってんのっ!?」
すかさずそうツッコむ私の声が、思いがけず裏返った。
「あーもー…。またそうやって・・・私、知らないよー?」
心底呆れた表情で、里桜が言う。
「?何が?」
「もぉ…っ!律花の鈍感!」
(あ。―――――また…言われた…)
『律花が鈍感なだけだ』
―――里桜の言葉が、昨日の頼に言われた台詞とダブった。
「・・・り、里桜もそう思うの?」
「思うよ?」
おずおずと聞き返す私に、何を今さら…と言いたげな表情で里桜が即答した。
(じゃあ…本当に私って…―――“鈍感”なの?)
まさか、私が?
でも、この二日で二回も言われるなんて。
やっぱり、そう…なのか?
『律花が好きだからそうやって近付いてるだけだって、なんで気付かないんだよ…っ!』
いやいや、でも田端くんが私を…なんてあり得ないし!
頼が、勝手にそう言ってただけで。
田端くんは、親切でしてくれてただけなのに…。
「えっ、ちょっと待って何っ、なんなのその反応!」
かぁぁっと顔が熱くなったのを自覚した途端、里桜がまた嬉しそうにキラキラした目を向けて迫ってくる。
「な、何でもない!」
「何でもないって顔じゃないし!」
里桜が、いつになく興奮してるのか、私の机に手をついて顔をずいっと近付けてくる。
「もしかして!?ついに赤下に言われたの?」
図星だったからか、ドキッとした。
―――なんでこう、鋭いんだろう里桜は。
隠したところで里桜にはバレると思い、私は観念して口を開く。
「―――う、うん…。実は。」
「えっ!!なにそれ聞いてない!」
喰い気味に、里桜が抗議してくる。
(そりゃあ、今初めて言ったからね…。)
「それでそれで?律花はなんて答えたの?」
「“そんなわけない”…って」
瞳を輝かせる里桜に、私はため息混じりに答えた。
そうだよ・・・。
絶対、あり得ない。
田端くんは下心があって、私に親切にしてくれてただけなんて。そんな人じゃない。
――――私のこと好きなんて、あるはずない。
「ん?んん?」
可愛らしく首をかしげて、里桜が口を開く。
「ごめん律花ちゃん、私、ちょーっと理解できないんだけど…」
里桜がふわりと微笑んで言った。困惑しすぎて、笑ってしまったようだ。
そりゃそうだよね、さすがに言葉が足りなすぎた。
「それ、詳しく話してくれる?」