26@頼視点
先に帰っていく彼女を追いかける気概もなく、俺はフラフラと一人家路へと着いた。
すると、
「あ…」
――――不機嫌な表情の彼女が、俺の家の前で待っていた。
「・・・なに?」
本当に俺は弱い。
勝手に傷付いて、こんな風に拗ねることしかできないのだから。
俺の低く不機嫌な声に、律花はきまずい顔をして言った。
「これ、うちのお母さんから」
こちらを見ることなく、底が広い紙袋を事務的にガサッと前に突き出される。
(デジャブだな…)
「どうも」
はいはい。
どうせ俺がそれを受け取れば、すぐ帰るんだろ?
受け取りながら、俺は勝手に不貞腐れていた。
だけど、次の瞬間…想定外のことが起きた。
「わ、私の分も入ってるの」
目をそらしながら、律花が唐突に言った。
さらに、すごく言いづらそうに言葉をつなぐ。
「頼の家で…一緒に食べてきなさいって」
「一緒に?」
俺はつい笑ってしまった。
いやいや、…笑うだろ、誰だって。
ついさっき、嫌いだと言った相手と一緒に夕御飯なんか普通、食べるか?食べたいと思えるのか?
俺の言葉に、彼女はさらに気まずそうにした。
口を尖らせてなにやら小さくブツブツ呟いているが、俺の耳まで届いてはこない。
「何言ってんのか聞こえないんだけど?」
俺が八つ当たり気味にそう言おうとして少し体を屈め、律花に顔を近付けた瞬間。
―――律花が俺を見上げた。
「・・・ごめん。さっきは言い過ぎた」
律花が、俺の目を見てポツリと言った。
律花が謝るなんて全く思わなかった俺は、言葉につまる。しかも、まさか至近距離で視線がぶつかるとは思わなかった俺は、その衝撃に堪えられず二歩ほど後ずさっていた。
(いろいろ、不意討ち過ぎんだろ…っ!)
顔の温度がみるみる上昇するのが分かって慌てて片手で隠す。
「もーいいよ…」
「だけどね、頼。」
照れ隠しにそっぽを向く俺と、彼女の声がほぼ同時に重なった。
「…私、久しぶりにあんたに再会して、正直混乱してる。」
(…は?)
律花が突然そんなことを言い出すから、ドキリと心臓が過剰反応した。
出来れば関わりたくもないんだけど、こうして晩御飯とか持たされるわけで…。とか、ブツブツ言いながら律花がうつ向いて言葉を続ける。
「―――だから、提案なんだけど」
「ん?」
“提案”ってなんだよと律花を見つめていると、彼女の顔はみるみる赤くなっていき、少しばかり身体が震えているようにも思えた。
まるで、告白でもするみたいな…―――
え、告白?
え、いやいや、律花ちゃんが?
俺に・・・?
そんなところまで想像して、俺はドキドキしながら彼女が口を開く瞬間を待っていた。
ようやく顔を上げた彼女は、意を決した表情で言った。
「私達、健全なお友達になろ?」
「・・・は?」
(“友達”…?)