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「何すんの、ばかっ!」
抱き締められたのが堪らなく恥ずかしくて、私は顔を真っ赤にして怒鳴った。
するとばつが悪そうに視線を逸らした頼が譫言のように呟く。
「ごめん、つい…」
その言葉を聞いた瞬間、私の中でプチンと何かが切れた。
はぁぁぁぁ!?
“つい”だとぉぉぉ?!
「頼のそういうとこ、嫌いっ!」
立ち止まったままの頼を置いて私は一人、怒りに任せてズンズン早足で歩く。
(“つい”ってなんなの!?誰でも良かったわけ?)
そもそも急に押し黙って、なんか苦しそうに顔歪めたりなんかするから。
(もぉ!――――心配して損したっ!)
家の前まで着いて、玄関のドアに手をかける。
(“つい”って、なによ――――・・・)
先程の頼の言葉を思い出すだけで、心臓の辺りがギュッと詰まる。
あんな言われ方をしたからショックだったのか?
―――それとも…?
考えたくもない可能性の一つを、つい思い浮かべてしまう。
(好きじゃない、あんなやつ!)
そう心の中で何度も唱えるのに、頼の腕の中にすっぽりと入ったときの温もりが・・・驚くほど心地好くて。その瞬間、ドクンと胸が甘く高鳴って。
まるで中毒みたいに…私の身体に染み付いた気がした。
(ダメダメ!あり得ないから!)
『嫌がらせする』
――――あの言葉を、忘れたわけじゃない。
『別に好きじゃない』
――――あんな思いはもう、したくない。
(そうだよ…。頼は私のこと、嫌いなんだよ。期待するな!)
もう傷付きたくないからそう制御しようとして。
だけど、どんなに頭の中で指令をかけても、胸は勝手にドキドキと鼓動を止めない。
(苦しいのは、私だ・・・)
ガチャリと玄関の扉を引き開けると、ちょうど母が出掛けるところだったのか玄関先にいて驚いた。
「あ、おかえり律花!ちょうど良かったわこれ、頼くんに持っていって」
(なんでいつもこう…タイミングが!!)
私は制靴を脱ぎながら素っ気なく答えた。
「・・・・無理、お母さんが行けば?」
「もー何よ、また喧嘩?だったらなおのこと、これ持っていって仲直りしてきなさい」
「え、ちょっと!」
ガサッと料理が入った紙袋を押し付けられて、玄関先から上がることができない。
「あんたの晩御飯も、バッチリ入れといたから!」
(はぁぁっ?)