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「部活…お疲れさま」
「おお」
部活が終わった頼とそれを待っていた私はそれだけ言葉を交わし、それとなく一緒に歩き出す。
(―――か、会話に困る!)
二人で帰るのは久しぶりで、なんか変に緊張してしまう。隣を歩く頼に、私は歩く速度を合わせる。
『律花ちゃん、待ってよー』
―――ランドセルを背負っていた時は、私より背の低かった頼が、私を追いかけていたのに。
(いま、隣りを歩いてるのが“頼”なのに“頼じゃない”みたいで…―――)
いつも、何を話してたんだろう?
お互い会話のない瞬間だってあったはず。
なのに。
(なんでこんな、沈黙がつらいの・・・っ?)
「田端くんも一緒に帰れば良かったよね」
沈黙に耐えられなくなって、私は会話を始めてみようと試みた。共通の話題もなく、考えて考えて、先程の絡みで“田端くん”の名前を出した。
「…なんで?」
少し間をおいてから、頼が低く、小さい声で問い掛けてきた。それがなんだか怒っているように見えて、私はその意図がわからず戸惑う。
(え?なんで?私はただ、さっきみたいに会話できたらと思っただけなのに。)
「なんでって…。せっかく同じクラスだし、家も同じ方向だし…。そもそもあんた、仲良くしたかったんじゃないの?」
「は?そんなわけないだろ」
(え?)
強い口調で。拒絶するみたいに。
頼のそんな口調が、まるで自分が言われたみたいにズキッと胸に突き刺さった。
「田端くんだけは絶対、あり得ない。」
(酷…。そこまで言う?)
こないだ田端くんのこと気にしてたじゃん。
仲良くなりたかったんじゃなかったの?
(やっぱり、頼が分からないよ…)
悲しいような、悔しいような。
複雑な気持ちが胸の中に広がる。
(―――イライラしてしまう…)
「田端くんが頼に何したのか知らないけど、そんなふうに言うのはどうかと思う。今日だって、わざわざ残って手伝ってくれたんだよ?それに田端くんは」
「“田端くん田端くん”ってさ、」
きつい口調になっていたのは、私だったはずなのに―――…。頼が声を荒げて、私の言葉を奪う。
私はそんな苛立った声の頼に、ビクッと肩を揺らし立ち止まる。
頼が、こちらを向かずに淡々と続けた。
「あいつのこと優しいとか言ってるけど、あんなの優しさじゃなくてただの下心でしかないんだよ。律花が好きだからそうやって近付いてるだけだって、なんで気付かないんだよ…っ!」
ちょっと待って。
―――“田端くんが”、“私を”、“好き”?
今、そう言ったの?
「何を勝手なこと言ってんの?田端くんに限って、下心とかあるわけない!だいたいあんたは田端くんのこと何も知らないでしょ?」
なんで私は、頼と口喧嘩してるんだろう。
“田端くん”のことで。
―――一瞬、頭の片隅にそんな考えがチラついたけれど、私の口は止められなかった。
頼がこちらをゆっくり向き、私を見下ろす。
怒っているような、悲しんでいるような目をして。
見つめられるのがつらくなるような表情で。
一言、言った。
「誰だって見れば分かるよ、そんなの」
そして、吐き捨てるような次の一言が、私の胸にグサリと刺さった。
「律花が鈍感なだけだ」