21@頼視点
『何のために同じ高校行くことにしたんだよ、お前は』
あの時の羽虎の言葉が、頭の中で繰り返し響く。
(――――これじゃ同じじゃないか…。)
結局俺は、また逃げてしまっている…。
「赤下!次、外周だと」
バスケ部員の同じ一年である牧瀬 港が声をかけてきた。
「おう…」
――――俺は外を走りながらずっと考えていた。
『好きだったよ――――…幼稚園のとき』
あの日―――俺がそう告げた時の、彼女の表情が忘れられない。
(幼稚園の時はお互いに、『好きだ、好きだ』言い合えていたのにな。)
あの頃の俺は、『ケッコン』が何かもよく分かないくせに、我ながらマセたことを言っていたなと思う。
でも、あの頃は…ただひたすら彼女の傍にいることだけを考えていた。
お互いの『好き』が友情だと思っていたし、それ以外の感情をまだ知らなかった。
(それがいつからだろう?―――“友情”が“恋”に変わったのは。)
分からない。
彼女への想いはずっと変わらず『好き』だったから。
だけど。
『律花ちゃんは赤下のこと好きじゃないって』
だけど彼女は、俺のことを異性として見ていないことを知ってしまったから。
―――だからあの日、俺は“逃げ”た。
『別に好きじゃない。親同士が仲良いから一緒にいるだけで』
からかわれた男子に、そんな言葉でしか返せなかった。『好きだ』なんて…言えるわけがなかった。
(これから異性として意識してもらうつもりだったのに…―――)
『・・・そーゆーとこは変わってないとか、バカじゃないのっ!?』
熱に気付いた律花が、俺に言った言葉を思い返して胸が熱くなる。
『ちょっと…大丈夫?』
相変わらず心配性で。
お節介で――――優しくて。
変わってなくて、嬉しかったのに。
(―――俺が惚れ直してどうするんだよ…っ)
もう、諦めようとした。
手遅れだったのだと。
朝からずっと彼女を避けて。
この気持ちを消そうとしていたのに。
そうしようとすればするほど…―――。
(…溢れてきてしまう。)
ダメだ。
全然、平常心でなんか…いられない。
(―――会いたい…っ)
「おいっ!赤下っ、お前どこ行く気だ!」
三年の大野主将が、外周のコースを外れた俺に大きな声で問い掛ける。
「すみません、今日は帰ります!」
「はぁ?!おいっ!コラ待て、赤下ぁ!!」
怒鳴り声を上げているキャプテンの声を背中で聞きながら、俺は全力で教室まで走った。
(―――早く。早く。)
謝ろう。
朝からずっと避けていたことも。
放課後、仕事押し付けてしまったことも。
教室の前に着き、その扉を開けようとして、何気なくガラス窓から中の様子を覗いた俺は、その手が止まった。
(なんで田端が…っ!?)
田端くんと律花が、教室で仲良く作業している。
ショックで頭の中が、一瞬にして真っ白になった。
分かってる。
彼女が好きなのは、田端くんだ。
分かってる。
だからせめて。
“嫌がらせ”という名の、“邪魔”をしよう。
(俺は、嫌われてもいい。)
グッと扉に手をかける指に力が入る。
「関係なくないよ…」
真っ直ぐに律花を見つめる田端くんの表情が、俺を焦らせる。
(絶対に、させない。)
「青島さん、実は俺…―――」
俺は、絶妙なタイミングで教室の扉を勢いよく開けた。
(―――律花に告白なんて。)