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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
20/140

20

「青島さん」


終礼が終わったところで、担任の百田(ももた)先生が教壇から降り、私の席までやって来た。


(げ。嫌な予感しかしないんだけど…)

「はい…」

引き攣った顔で返事をすると、百田先生がにこやかに告げた。


「ごめんねぇ、放課後(これから)少し残ってくれる?来週末のオリエンテーションのしおり作ってほしいのよ」

「…え。私一人で、ですか…?」


「うん。赤下くんにもお願いしたんだけどね、部活だからって断られちゃって。だから、お願い」


やってくれるわよねと言いたげな表情(かお)で、百田先生が微笑む。


((あいつ)、部活入ってるんだ・・・?)

先生の言葉で真っ先に思ったのは“それ”だった。


軽くショックを受けている自分に驚いて…戸惑う。


(なんか…私、変だ―――・・・)


知らなくて当たり前なのに。

知らないことに、イチイチ凹んでる。


考えたくないのに、気付くと勝手に考えてる。


(なんでこんな、頼のことばっかり…)


「青島さん?」

頼のことを考えていたところを百田先生に呼び掛けられて、私は我に返る。


「ああ、はい。…分かりました」

「それとね、このしおり一部訂正があるからそれも直して欲しいのよねぇ、頼める?」

「・・・・」

ニッコリ微笑む百田先生につられて、私も苦笑する。ははは…と渇いた笑い声がわざとらしい。


(要するに、やれってことなんですよね?)

―――そう思いながら、つい返事をしてしまう。

「…はい」


(典型的、イエスマンだわ…私。)





クラスメイトが次々に帰っていき、誰も居なくなった教室で作業を開始した。

今日は里桜も習い事があるからと申し訳なさそうに帰っていったので本当に独りだ。


パチンパチンッと、ホチキスで止める音が静かな教室に響く。


(―――頼なんて、気付いたら居なくなっていたし。)


頼も一応クラス委員なんだし、一言“ごめん”とか“頼んだ”とか言ってくれても良くない?


(っていうか、なんなの本当!)


今日一日、不自然なくらい私のこと避けてくれちゃって!


私はつい、今朝の頼の行動を思い出してしまった。


朝、私が里桜と教室に入るとすぐ、後ろの席である頼が席を立ったのだ。

―――それは明らかに、私が自分の席に着く瞬間のことだった。


その後も、授業中プリントを後ろに配るときも目を合わさないし。昼休みもすぐ居なくなるし。


(“嫌がらせする”とか、言ってたくせに今度は徹底的に無視って!)


思い出したら怒りが抑えきれず、私はつい机をバンッと叩く。


「青島さん?」

恐る恐るといった感じの声が廊下の方から聴こえて、私は顔を上げる。


「あ…」

(田端くん…)


―――見られた?見てたよね?


「どうしたの?あ、部活?」

動揺を隠しながら、そう声をかけると田端くんが教室へ入ってきながら答える。


「―――うん、まぁ…。そんなことより、これ大変そうだね」

しおりを一部手に取って、田端くんが訊ねる。


「大変そう、じゃなくて大変!なの!」


私がふざけ半分に文句を言うと、すぐに空いている隣の席に田端くんは座った。


「じゃあ俺、手伝うよ」

「え?あ…」


一人で作業するのはなんだか寂しかったから、そう言ってくれるその気持ちだけで私には充分嬉しかった。


(こうしてすぐに手伝おうとしてくれたり、本当に優しくて真面目な好青年なんだよなぁ、田端くんて…―――)


そんなことを思いながら両手を振って笑って答える。

「ごめんごめん、冗談だから!でも、ありがとね」



(頼のやつと、大違いだ!)


そう思いながら、何気なく顔を上げると…―――田端くんがじっとこちらを見つめていて目が合った。


「田端くんどうし…?」

言い終わるより先に、田端くんがいつになく強めの口調で言った。


「たまには、手伝わせて?」


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