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息が切れて苦しいけれど、私は止まらずしばらく走った。そして、頼が後ろから走って追いかけてきている気配がないことを確認して、走るのをやめた。
(あんなの…っ、頼じゃない!)
頼はいつだって私の気持ちを尊重してくれたし、何よりおとなしかった。
あんな強引な話し方なんてしなかった。
むしろ顔色を窺うような子だった。
―――中学校は、私の家と頼の家の間の小川をちょうど境に、学区が別々になった。
だから小学校の卒業式以来ずっと、顔を会わせずに済んでいた。
頼と同じ高校を受験していたと知っていたら、絶対選ばなかったのに。
(なのに…高校も、クラスも同じって…悪夢か。)
ついでに出席番号も前後。
もはや呪われているとしか思えない。
「あっ、」
教室に入った瞬間、里桜が私に気づいて微笑んだ。その瞬間、彼女の周りに花が舞ってる錯覚に陥る。
「おはよう律…っ」
「よくも置いてってくれたわね」
教室でかなり目立つ里桜の美貌については今触れずに置いといて、私はずいと里桜に詰め寄る。
「…あれぇ?律花ちゃん、もしかして怒ってる?」
白々しくとぼけた表情で首をかしげる里桜。
私が無言かつジト目で返すと、少し焦ったように言い訳を始めた。
「…ほらぁ、律花の家の前で赤下が待ってたから、仲直りのチャンスかなってぇ…」
「“仲直り”?…私達、別に喧嘩してないけど?」
棘のある口調になっている。
里桜は悪くないのに、これでは責めているみたいだ。
「律花…」
私の言葉に、里桜が眉をひそめる。だけど彼女がそんな表情をしたのは、私の言葉に傷付いたからではない。
(――分かってるよ、里桜が言いたいことは。)
里桜は、私と小学校からずっと同じだったから。
だから――――“あの日”のことも、知っている。
フラッシュバックしかけたその時、頼が教室に入ってきた。
「ひどいな、律花。待っててやったのに先に行くなんて」
頼が真っ直ぐ私と里桜のところまでやって来て言った。怒ったような台詞だが、どこか愉しそうにも見えた。
「・・・待っててなんて、頼んでないし。もう待ち伏せとかしないで。…迷惑。」
里桜の机に手をついたまま、後ろを振り返ることなく私はそう言い放った。その酷い言葉に、自分が傷付く。
(こんなこと、言いたい訳じゃないのに…―――)
「律花…言い過ぎだよ」
里桜がそう言いながらチラッと頼の顔を窺う。
「ああ・・・そう、」
背後から、そんな冷静な声が聞こえてきた。
驚いて振り返ろうとした私の耳元で、頼の低い声がした。
「だったら、嫌がらせする。」