19、不満
『明日からまた、赤下がいるんだろうなぁ律花の家の前』
(もぉ!昨日、里桜が変なこと言うから…っ)
―――月曜の朝、私はドキドキしながら玄関を出た。
(――――あ…れ?)
そこには約束どおり里桜が立っていた。
「あ、律花おはよー」
私に気づいて顔を上げるとすぐに微笑んでくれる里桜が今日も眩しい。・・・―――じゃなくって。
「・・・お、はよ…」
・・・なんでだろう。
肩透かし食らったみたいな気分なのは…。
モヤモヤする気持ちを押し込むように胸の前で手をグッと握る。
そんな私に、にっこり微笑んだ里桜が言った。
「赤下なら、用事あるからって先行ったよ?」
不覚にも、ドキンッと勝手に心臓が跳ねた。
「ベ、別に私はっ」
(頼のことなんて、探してないし!)
そう言いながら、赤くなっていく顔を見られたくなくて隠すように腕で隠す。だけど里桜はそれを愉しそうに見つめてくる。
「必死になっちゃって。かわいいなー律花」
「ふざけないでよ!!もぉ!」
歩きながら里桜と並んで登校していたその時だった。
「里桜っ!」
―――目の前から来た知らない男子が、里桜の名前を呼んだ。
東山高校の制服姿のその男子は、金髪にピアス。見るからに野蛮そうだ。
だけど近くまでやってきたその人を見たとき、どこかで見覚えがあった。
(あれ?この人、確か同じ小学校だった――…)
「おはよう虎ちゃん。珍しいね、早起きしたの?」
里桜が笑顔で挨拶をした。その“虎”の一文字で思い出した。
(あ!この人、加藤羽虎!?)
小学校から何かと悪名高くておまけに名前も珍しいから、覚えてた。
「そう、里桜に会いたくて頑張った!」
ニカッと里桜に笑いかける彼を、私は里桜の隣で困惑しながら見ていた。
(もしかして…。この人…里桜の…か、彼氏!?)
「サボらないで頑張ってね、あ、ネクタイ変だよ」
「直してー」
「仕方ないなぁ、もぉ」
里桜がクスクス笑いながら、加藤羽虎のネクタイに手を伸ばす。
何、このラブな会話!?
これ絶対付き合ってるよね!?
ていうか、こっちが恥ずかしくて直視できないんですけどっ!?
なんとく目のやり場に困って、少し離れたところで目を逸らして私は一人、考えていた。
(彼氏だよね?――――里桜の奴、いつの間に…っていうかなんでこんな不良みたいなやつと、里桜が!?)
里桜の彼氏を今まで知らなかった事よりも、彼氏が加藤羽虎(“あれ”)だということにショックを受けた。
(相手が相手なだけにビジュアルが、“リアル美女と野獣”なんだけど…。)
里桜が誰とも付き合わなかったのは―――この彼氏がいたから、…なのか?
「じゃあね」
「おう、またな!」
嬉しそうに逆方向へと歩いていった彼に、微笑みながらヒラヒラ手を振って見送る里桜。
私は遠くなっていく里桜の彼氏の背中を眺めながら呟く。
「里桜…彼氏いたんなら言ってよ…」
「え?彼氏?」
キョトンとした表情で、私に向き直る里桜。
「いやいや、今の人里桜の彼氏なんでしょ?加藤…」
私の言葉は、里桜の笑い声でかき消された。
「あはは…っ。ふふっ。やだなぁ律花ちゃん、虎ちゃんは彼氏じゃないよ?」
「えっ、そうなの?」
「うん!ただの、トモダチだよ」
里桜は笑顔でそう答えたけれど、私は少し疑問に思った。
「・・・え」
(“ただのトモダチ”?あれで?)
「私、里桜が分からんくなったわ…」
――――私の言葉に里桜はただ、妖艶に微笑んで応えただけだった。