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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
17/140

17

翌朝、私が起きたときにはもう頼の姿はなかった。


「律花。遅すぎてもう頼くん家に帰ったわよ」

リビングに顔を出すと母が言った。


遅すぎって、まだ九時半だし。

日曜の朝にしては(というか私にしては)早いと思うんだけど…。


「あいつ、…体調治ったの?」

欠伸を噛み殺しながら、私は訊ねた。


「うん。“すっかり良くなりました”って。でも、」

答えながらキッチンへ行きかけた母が、ふとその足を止めた。


「まだ元気なさそうに見えたのよねぇ、心配だわ」

思い出したように眉を寄せ、心配そうな顔で呟く。


「今日舞さん帰ってくるんでしょ?だったら大丈夫なんじゃない?」


顔を洗ってキッチンへと向かうと、良い匂いが鼻をくすぐる。


(あ!今日の朝ごはんは、ベーコンレタスサンド!)

心の中で私は小さくガッツポーズした。


こんがり焼いたトーストにベーコンとレタスを挟んで食べるのが最近のお気に入り。私はそれにチーズを乗せるのも好きだ。


平日はお弁当を作ってくれるからか朝ごはんは白米のことが多く、休日はパンであることが多い。私は朝、パン派なので休日の朝ごはんは何気にテンションが高めだ。


コーヒーを淹れてテーブルにつくと、目の前に用意されたベーコンレタスサンド。

それを食べようと口を開けたまさにそのタイミングで、母が声をかけてきた。


「頼くんのこと、学校でも気にかけてあげなさいよ?」


食べようとした口を一回閉じ、私は母を睨むように見る。

至福の瞬間を邪魔されたのと、(あいつ)の話をされたのとでイライラが二倍募る。


「…なんでよ」


「なんでって…昔から熱とかいち早く気付くの律花だったじゃない?」

「だからって…」


(―――…私には、関係ない。)


『無理するのはやめたら?』と、念のため忠告もしておいた。だから私がこれ以上関わる義理もない。


大好物のベーコンレタスサンドにかぶり付きながら、そう思っていると母が何か言いたげにニヤニヤと私を見つめていた。


「な、なによ…その顔―――」

「昨日だってなんだかんだ言ってすっかり昔みたいに仲良くなってたくせに。律花は本当に素直じゃないわねぇ…」


(“昔みたいに”――――…。)


そのワードで思い出してしまうのは、昨日の頼の―――あの告白(ことば)


「んぐっ。な、…仲良くなってないし!お母さん、目がおかしいんじゃないの?」


もう!

お願いだから、貴重なベーコンレタスサンドを味わせてよ!

折角のベーコンレタスサンドなのに、それを喉に詰まらせるなんて、もったいないじゃないか!


「はいはい。そうね」

私の反応を愉しそうに眺めて、母が言った。


「ごちそうさま…っ」

私はコーヒーを飲み干してすぐに席をたつ。ここにいたら、イライラばかりしてしまう。



(折角の日曜なのに…―――)


また私、あいつのこと考えてる。

嫌なのに、気付くと考えてる。


(もう、忘れたいのに…―――)


ズキンと痛む胸の奥。

ずっと見ないようにしてた過去。




『俺も…好きだったよ…――幼稚園のとき。』


(そんなの、知ってるっての…。)

頼が、幼稚園の時私を好きだったことなんて。

私だって同じように、頼のことが好きだったのだから―――。


(なのに…―――なによ今さらあんなこと言って!)


あんなの…。今は“違う”と、言っているようなもんじゃないか!


(なんでいちいちあんなこと言うわけ?―――あ…、またからかわれた、とか?)


階段を上がる度に足がドスドスと乱暴な音をたてる。―――つい、イライラしてしまう。


(っていうか!…こっちだって、もう好きじゃないんだから!)


自分の部屋に戻りドアを閉める。

勝手に溜め息が出て、足元に落ちて消えた。


(なんで…私こんな…―――)


頼の言葉が、私の胸を締め付ける。

勝手に胸が高鳴って、私を苦しめる…。



『俺も…好きだったよ』



なんで、―――あの言葉だけが、都合良く耳に残っているんだろう…。

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