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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
16/140

16@頼視点


『律花ちゃんは赤下のこと好きじゃないって』


忘れもしない…あれは小学校六年生の時だった。


たいして話したこともなかったクラスの女子にそう言われた時、初めて“ショックのあまり言葉を失なう”という経験をした。


律花ちゃんが俺を、“幼馴染み”として「好き」だと思ってくれていることは分かっていたつもりだった。―――そこに、“異性”としての気持ちが入っていないことも。


それなのに、第三者(無関係な人)からそうハッキリ告げられた瞬間、俺は失恋したようなショックを受けたのだ。



『田端くん、良い人だよ。いつもすごく親切だし、他の男子みたいに変なことで騒いだりしないし』


――――ああ言った時の彼女の表情(横顔)は、俺に、あの時と同じぐらいのショックを与えた。


田端くんは、彼女に信頼されている。

間違いなく、彼女に好感を持たれている。


(あの表情(かお)を見れば、一目瞭然だ…。)


『つうかあいつら、付き合ってるんじゃね?』

昨日の木下の余計な一言まで勝手に思い出されて、俺は自らトドメを指した。



(ああもう…っ!ショックがでかすぎるって…)


(はるか)くんの部屋の、(はるか)くんのベッドで一人悶え苦しんでいると、コンコンとドアをノックする音がした。


ドアが少し開き、律花ちゃんが遠慮がちに顔を覗かせる。


「…熱、下がった?」


熱は下がったけれど、気持ちは全く晴れない。


「ああ…」

俺は律花ちゃんから目をそらし、力なく答えた。


「シャワー入るんなら、バスタオルと着替えここに置いておくから」


そう言いながら、ベッドの端にバスタオルと着替えを置いてくれる。

その何気ない仕草すら、俺の心を波立たせる。


今この瞬間は、俺と居るのに。

手を伸ばせば、君は…―――俺の手の届くところに()るのに。


そんな切ない思いが、喉の奥でグッと詰まる。


「律花…」

「ん?」

名前を呼べば、無意識に顔をこちらに向ける彼女。

そんな彼女に、俺は小さな声で言った。


「俺も…好きだったよ」

「なっ!?」


律花ちゃんは、明らかに動揺した。

その反応で彼女の気持ちを探る自分は卑怯だと思う。だけど、そうでもしないと…俺の脆い心は碎け散ってしまう。


(分かってる…)


だから、自分(俺自身)が傷付かないためにわざと少し間を開けてから、この一言を付け加える。


「…――幼稚園のとき。」


(…聞いていたから、さっきの弥生さんとの会話全部。)


「お、驚かせないでよ。知ってるよ、そんなの。」


俺の付け足した言葉に、律花ちゃんが安心したように胸を撫で下ろすのを…見た。

その訳は、考えずとも分かっている。


(なぜなら君は、田端くん(他の男)が好きだから。)


「…どうして気持ちって変わっていくんだろうな」


俺の心からこぼれた呟きは、律花ちゃんの耳には届かない。それぐらい小さな声だった。


俺が自分の本当の気持ちにもっと早く気が付いていれば…―――せめて律花が、田端くんに出逢うより前に。


(だけど…もう遅かった…)

君の、僕への気持ちは既に“過去”のものだと。

今日、その現実を突き付けられた。

(…俺の気持ちは、まだここに在るのに。)



「…ねぇ。そんなことより、何を無理してるのか知らないけど疲れるだけだからやめれば?」


律花が素っ気なくそんなことを言うから、俺は言葉を詰まらせた。

なんと答えればいいのか、咄嗟に良い答えが見つからなかったのだ。


「・・・・」


(“やめれば”って…律花ちゃん()それ言う?)


無理してでも、君の理想に近付きたいと思った。

“あの時”の言葉を、取り消して…もう一度、やり直したいと。そう願っていた。


ベッドから降りてバスタオルと着替えを手に取ると、俺はドア付近に立っていた律花の横をすり抜け部屋を出た。


「シャワー、…入ってくる」


――――そう言うのが、やっとだった。

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