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頼は昔から、頑張りすぎるところがあった。
―――控え目な性格で、努力家。
だけど無理しすぎると、決まっていつも熱を出す。
しかもそれを周りに隠して平気なふりをするという、たちの悪い癖があった。
・・・そして、そんな頼の異変に一番に気付くのはいつも私だった。
だから幼なながらに“私が頼の傍にいないと”などと、勝手に思い上がっていた。
(今思えばそれが、迷惑だったのかもしれない。)
頼は、別に傍に居て欲しかったわけではなくて。
私が勝手に世話を焼いてしまっただけ。
(―――もう間違えないようにしないと。)
そんなことを思いながら、頼をリビングに通す。
「ソファーに横になってれば?」
さりげなく気遣って声をかけたつもりが、意識しすぎてかなり素っ気ない口調になってしまった。
(また、“かわいくねぇ”とか、言われるかも…)
昨日のことがあったし、私は身構えるようにして頼の反応を待った。
「ああ。ありがと…」
「え。・・・あ、うん。」
昨日と打って変わって、頼の素直な反応に拍子抜けしてしまう。
病気で弱ってるから…なのかもしれない。
チラッと頼の様子を窺うと、頼が遠慮がちにソファーに横になる。その動作だけで、だいぶつらそうなのが分かった。
「そんなんじゃ、今日帰れないんじゃないの?」
心配してそう言っただけなのに、途端に頼の表情が明らかに不機嫌になる。
「…なに、よ?」
私が悪いわけじゃないのに、なぜか責められているような空気に堪えられず口を開くと、頼が眉間に皺を寄せながら言った。
「律花って、…―――誰にでもそうなの?」
「は?“誰にでも”…って?」
頼の質問の意図が、全く理解できない。首をかしげていると、頼が言った。
「田端くんとか、」
「え?」
(なんでそこで急に個人名出すわけ?)
少し考えて、私は察した。
ああ、やっぱり無理してたんだ…と。
周りにクラスの男子達がいたから仲良くなったのかと思っていたけれど、そもそもああいうノリの男子は、頼とは合わないだろうと思っていた。
それと比べて田端くんならかなりおすすめだ。きっと頼と合うと思う。
「田端くん、良い人だよ。いつもすごく親切だし、他の男子みたいに変なことで騒いだりしないし」
「…ザンコク」
ちょうどキッチンで水を出していた私は、シンクに流れ落ちる水の音でかき消され、頼の言葉が聞き取れなかった。
「え?なんか言った?」
水の入ったグラスを持ってソファーへと運びながらそう訊ねたけれど、頼はなにも言わなかった。
(気のせいか?)
「ほら水。…薬飲めば?さっき買ってきたんでしょ?」
頼が持っていたドラッグストアのビニール袋をあさると、やはり薬が入っていた。予想通り、市販の解熱薬を買いに行っていたのだ。
「はい、薬。」
頼は無言で水の入ったグラスと薬を受けとると、薬を口に入れると水を一気に飲み干した。そしてダンッと音をたててサイドテーブルにグラスを置く。
「ちょっと…大丈夫?」
そんなにしんどいのかと顔を覗き込むと、すぐに私に背を向けて頼が言った。
「大丈夫じゃない…。――――寝る。」
(え、そんなに具合悪いわけ?)
でも“寝る”と言われてしまったら、これ以上声をかけるのも迷惑だと思い、私はブランケットを持ってきて頼に掛けた。そして念のため声をかける。
「寒かったら言って、毛布持ってくるから。」
頼はもう寝てしまったのか、返事は無かった。
(何なのよ…、もぉ。)
頼の広い背中を見つめながら、私は心の中でそう呟いた。