バイトばれました(日常編)
「・・・ごめんね手際悪くて」
「青島さんのせいじゃないよ、今日はいつもより混んでたし仕方ないって」
バイトの上がり時間が一緒で、田端くんと店の外に出た。
簡単に考えていたけど、食器洗いも量が多くて慣れないとすごく大変だ。やってもやっても目の前に積み重なっていく皿に愕然とした。
結局見かねた田端くんが何度助けてくれたけど・・・女子の癖に皿洗いもまともにできなくて情けない。
さらにがっくりと肩を落とす私に優しくフォローしてくれる田端くん・・・いかん、本当に優しくて涙が出そう。
「土曜の夕飯時があんなに大変だと思わなかった」
「今日は近くでライブかイベントでもあったのかも。そうなるといつも以上に混むから」
「そうなんだ」
田端くんとそんな他愛ない話をして帰り道を歩き始めたところで、後ろから声がした。
「律花?・・・何してんの?」
その声に、私は反射的に振り返っていた。
頼だって、振り返らずとも分かっていたけど。
「どっ、どうしてここに・・・・」
そこには、スウェット姿なのに道行く女性達が振り返るほど見事にオシャレに見せている、高身長でやたら顔が良い男が立っていた。
私も一瞬カッコイイと思ってしまったのは、彼女としての欲目なんだろうか?
───ってそれどころじゃなかった!
バレた?
え、なんで?どこから?
しかも、・・・ていうかやっぱり────怒ってる。
サーッと血の気の引く音がした気がするほど、私も田端くんも真っ青になる。
「なんで田端くんと?」
「───偶然、バイト先が同じになったんだよ。ね、青島さん?」
「そ、そう!本当に偶然!」
「“偶然”?」
低い声でそう問い詰める頼に、なぜか心臓がドキッと跳ねた。
「本当に偶然だよ、信じて」
何でだろう、必死に言えば言うほど怪しくなってない?
「かえろ」
冷や汗をかきまくりの私の手を取ると、頼が足早に歩き出す。
「あ・・・ごめんね田端くん、また明日!」
それだけ田端くんに伝えて、手を引かれながら必死に早足についていった。
────そして、長くて重い沈黙のあと頼が小さく声を発した。
「なんでバイトなんか・・・・しかも田端くんと」
「だから、偶然一緒になったんだってば」
「それはさっき聞いた」
繋がれていた手がほどかれて、目の前に向き直ると頼の悲しげな瞳が私を覗き込む。
(や、やめて。その捨てられた子犬みたいな顔・・・)
「なぁ、なんで隠し事すんの?」
「だ、だって・・・・言ったら頼、辞めろって言うじゃん」
「当たり前だろ!?」
(“当たり前”、なんだ?)
頼の反応に半分呆れながら、私は口を尖らせる。
「だから言わなかったんだって!てか、言えなかったんだよ」
「そんなに、辞めたくないんだ?」
「・・・暫くは」
あの子犬みたいな顔を直視しきれなくてつい、目を逸らしてしまう。
だってまだバイト代入ってないし。
始めたばかりですぐ辞めますっていうのも非常識だし。
一応最低限決められた期間まではやりとげるつもりだ。
「・・・・・」
無言なままの頼に、私は顔を上げる。
うつ向いていた頼の表情が、外が薄暗いからかよく見えない。
「頼?」
「────ちょっと・・・・ごめん」
頼は小さくそう言うと、私に背を向けてどんどん一人で先に行ってしまった。
「え、ちょっと!?・・・頼?」
(なんでそんな怒るんだよぉ?!)




