禁断症状にご注意を!(日常編)@頼視点
「ただいまぁ」
部活を終えて俺はいつものように明るく青島家の玄関を開けた。疲れなんて、ここに帰ってくれば全て吹っ飛ぶ。何故なら幸せ過ぎる新婚生活のような暮らしを、しているのだから。
最近は、仕事で不在がちになった弥生さんの代わりに律花が夕御飯を作ってくれていた。だから俺の部活が終わるのを待たずに律花は先に帰ってきている。
だからもう、本当に家に帰ってくるこの瞬間は“新婚”と言っても過言ではないのだ。
そして俺の律花は、いつも「おかえり」と笑顔で出迎えてくれる。
───はず、なのに・・・今日はなんのアクションもない。
「・・・律花?居ないのか・・・?」
そんな独り言がぽつりとこぼれる。リビングも灯りがついていなかったし、もしかして本当にまだ帰宅していないのかもしれない。
どこに行ったのか心配になりすぐに鞄からスマホを取り出しながらリビングのドアを開けると───律花はそこに居た。
居たんだけど・・・・。
(ね、眠っている。もしかして、待ちくたびれた・・・?)
ソファーに横たわるようにして、律花がスヤスヤ眠っていた。
(────やば、めっちゃかわいい・・・ )
無防備な姿に、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
『高校生は学生らしく、清いお付き合いを────』
弥生さんの言葉が、脳裏をよぎる。
それが今、俺の理性をギリギリ引き留めている。
「ん・・・ょ・・り」
ドキンと心臓が跳ねた。至近距離で見つめすぎて律花が起きたのかと思った。
だけど少しだけ向きを変えると、律花はまたスヤスヤと寝息をたてる。
(夢・・・見てんのか?俺の?)
そう思ったら、堪らなく愛しくなった。
さ、触りたい!
すごく触れたい!
ちょっとだけ、ちょっと頬に触れるだけ!
────同居生活は幸せだ。毎日律花といられるし、独占できる。
だけど、ただひとつ難点があった。
こんなに近くにいるのに、全然律花に触れられないことだ。
弥生さんの言葉に縛られ、手を出すことが出来ない。
それゆえに、俺は毎日自分の理性との闘いだ。
朝、学校まで手を繋ぐことも出来なくなったのは、触れてしまったら暴走してしまいそうだからだったりする。
律花の頬にそっと手を添える、その手が震えた。
(うわ・・・・これ、やばすぎ)
久し振りの律花の肌の温もりが、中毒みたいに理性を崩壊させた。
軽く触れるだけのキスで終わりにしようと思っていたのに・・・。
「ん・・・っ?んは・・・っ。よ、」
あっという間に律花の唇の柔らかさに魅せられて気づけば舌を絡ませていた。
当たり前だがその瞬間起きた律花が、驚いたように目を見開いて俺を止めようと腕の中で暴れる。
(止まんね・・・)
「よ、ちょっ、頼・・・っ」
涙目になって乱れた息をする律花の声に、ハッと我に返った。
いつの間に俺は、律花を組み敷いていたのか。
「ごめん・・・」
すぐにソファーから降りると俺は顔を背ける。
(だせぇ・・・俺、余裕無さすぎだ。)
完全に我を忘れてしまった。
清いお付き合いをって、頑張ってきたのに。
こんな無理矢理・・・・律花に嫌われる・・・・。
「・・・なんで?」
自己嫌悪に陥る俺の耳に、律花のか弱い声が聞こえてきた。
「なんで謝んの・・・?」
「だって律花がいきなり寝てるところを俺・・・」
「ああうん・・・確かにそれはびっくりしたけど・・・」
目をそらしながら律花がぶっきらぼうに答える。
「だけど別に・・・嫌じゃなかったよ?その、お、驚いただけで」
「え?」
律花ちゃん・・・状況分かってないよね?
俺今、めっちゃ堪えてるんだけど?
そんなデレ部分、今出されたら─────困るんだけど。
「う・・・れしかった、最近全然・・・何もなくて寂しかったから」
「律花・・・・俺を殺す気?」
「え?」
たまらず律花を引き寄せギュッと抱き締めると、すっぽり腕の中におさまった律花がそっと俺の背中に腕を回した。
「・・・好き」
死ねる。
今なら死ねる。
もう悔いない!いや、ある! ある!
まだ律花の隅々まで堪能してない!
死んだら誰かに律花狙われる、それは無理!
「律花、大好きだよ」
俺の言葉にそっと顔を見上げた律花と至近距離で視線がぶつかる。愛しい想いが、また爆発しそうになる。
それをグッと堪えてゆっくりと唇を近付けたその時────。
「たっだいまー!律花ー、今日の夕御飯なにー?」
玄関から響いてきた弥生さんの声に、俺たちは素早く身体を離すのだった・・・・。