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「弥生さんからぜひにと言っていただいていてね、頼がどうしてもこっちに残りたいのなら」
「俺、弥生さんに頼んでくる・・・っ」
話も最後まで聞かずに、頼は私の家へと駆け出した。
「ちょっと、頼・・・!?」
私の引き留める声にも振り返ることなく、頼は行ってしまった。
「全く困った息子だな、」
そう言って苦笑いを浮かべるおじさんは、本当に困ってるようには見えなかった。
唖然としたままソファーから動けないでいる私に、おじさんが言った。
「律花ちゃん、頼のことお願いしても大丈夫かい?」
「あ、はい。───大丈夫です」
(なんか────こうして話していると・・・)
「そうか・・・あんな息子で申し訳ないけどよろしく頼むよ」
「いえ────こちらこそ。ありがとうございます」
(頼と家族になれた気がして────くすぐったい。)
そんな未来の妄想までしてしまう自分が恥ずかしくなって、うつ向く。
「嫌になったらいつでも連絡して、引き取りに来るから。遠慮なく突き放してくれていいからね」
「そんなの、」
あり得ないです!と口から出かかった。そんなムキになる私に、おじさんがクスクス笑う。
(あ、からかわれた───・・・のか?)
「ありがとう。なかなか私はこっちに顔も出せそうにないから、連絡先を教えておくよ。困ったことになったらいつでも、連絡して」
──────おじさんと話したのはそれくらいで・・・・。
そうして夏休みが終わる頃────引っ越しの手続きを終えた舞さんはおじさんの家へと行ってしまった。
「おはよう、律花」
二学期の初日、いつものように頼が私にそう挨拶する。
だけど、いつもと違うのは─────。
(そうだ、油断してた────・・・・っ!)
違うのは────同じ家にずっと頼が居るということ。
「お、はよ・・・」
寝起きだったから余計に恥ずかしくて、つい目をそらしてしまった。
「二人とも、早く朝御飯食べないと遅刻するわよー」
「「はーい」」
母に返事をするのが重なって、ついお互い顔を見合わせる。
「行こ」
頼が私に見せる笑顔が、蕩けるように幸せそうで。
「うん」
私もつい、笑顔になってしまう。
「頼くん今日からよろしくね。困ったことがあったら私をお母さんだと思って遠慮なく言うのよ?」
「はい、ありがとうございます」
母にしてはまともなことを言うなぁ、なんて思いながらコーヒーに口をつける。
「それからあんた達、付き合うのは良いけど家では不純異性交遊禁止だからね」
「ぶっ」
コーヒー、吹いたわ!
「おか、お母さんんっ!?何、急に───・・・」
慌ててコーヒーを拭く私を無視して、母が頼にニッコリ笑う。
「高校生は学生らしく、清いお付き合いでお願いね!ね、頼くん?」
「・・・はい、頑張ります」
よ、頼?
が、頑張るって何を!?
動揺したまんまの私を頼は気にも止めてない。
そして母を真っ直ぐに見つめながら、ハッキリと言った。
「でも、卒業したら律花ちゃん貰ってもいいですか?」
「ふふふ。それはもちろん!」
「な、何言ってんのちょっと!」
笑う母と思わずな私の声が同時に発せられた。
そして、頼が明らかに悲しそうな瞳を向けてくる。
(な、何よ───)
「律花ちゃん────約束したよね?」
(うわ、ズルい・・・・それ)
────この先どうなるのか分かりませんが、きっと、ずっと。
「そ、それはそうだけど」
「でしょ?」
私の隣にはこうして頼が居てくれるんだと、信じています。