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『律花、そんな表情すんなよ。・・・約束、したろ?』
(う、うわぁぁあ・・・・っ)
ダメだ!
さっきの場面がずっと頭から離れない。
いつの間にか自然に繋がれてる手に、意識がいってしまう。
バスケの試合会場からの帰り道、意識はやっぱり繋いだ手に向いてしまう。
頼も黙ったまま、私の手を引いて歩くだけ。
だけど不思議と────以前のような息苦しさはなかった。
以前なら手汗とか周りの目とか────気にしてばかりだったくせに。
今は────頼の手の温かさが心地好い。
(ねぇ頼は─────本当に、居なくならない・・・・?)
もっとこうしていられたら・・・なんて。
(私・・・・おかしいのかな。この手を───離したくない、なんて。)
「・・・律花?」
気が付けば、繋ぐ手にぎゅっと力が入っていた。
頼が困ったように笑う。
「どうかしたか?」
「あ、ごめん・・・っ」
弾かれたように慌てて手を離す私に、真顔で頼が言った。
「────家、寄ってく?」
「え・・・?」
ドキンと心臓が跳ねた瞬間、頼が私に優しく微笑んだ。
「どうぞ?」
甘い誘いについ────赤下家の玄関へと連れられ向かう。
そして玄関を開けた頼と私は、踏み入れた瞬間驚きのあまり並んで固まってしまった。
「二人とも、お帰り」
苦笑いでそう出迎えてくれたのは─────。
「おじさん!」
「親父!」
────頼のパパだったからだ。
お仕事で地方に行って以来、こちらに戻ってくることがなくて。
私は、おじさんに会うのが本当に久しぶりだった。
顔が頼と似ていて、少しドキッとする。
「───律花ちゃん久しぶりだね。」
「あ、はい」
「実は二人に話があるんだ」
「私も?」
何だろう、おじさんの話し方は静かで穏やかだけど、威厳があって。
真面目な表情が、少し・・・・怖い。
おじさんが怖いのではなくて────その、“話”の内容が。
「・・・・なんだよ突然来て」
頼の表情が、警戒するかのように強張る。
「とりあえず、座ろうか」
私たちは言われた通りリビングへ向かい、ソファーに並んで座った。おじさんは私たちの向かい側にゆっくり腰を下ろすと、話始めた。舞さんはお買い物なのか、不在で────なんだか空気がピリピリしている。
「さて。───頼、舞さんから聞いてるよな?この家を売る話」
「聞いたけど、認めてない」
(やっぱり、その話だった・・・・)
私は、ドキドキしながら話を聞く。
頼の即答に、おじさんが苦笑いを浮かべて言った。
「お前が律花ちゃんと離れたくない気持ちは分かる。」
「それなら・・・っ」
「だけどそのためだけに、今この家を残すことは出来ない」
(ああ、頼も連れていかれてしまうんだ──・・・)
頭の片隅でそんなことを思った。
だけどまだ、なんの実感がわかなくて・・・・。
私はどこか他人事のように二人のやり取りをただ黙って聞いていた。
「俺は、絶対行かないからな」
「頼、話を最後まで聞きなさい」
たしなめるようにおじさんが、頼に声をかける。だけどその表情は───どこか楽しそうだった。
「頼がどうしてもこっちに残りたいのなら、方法はあるんだ」
「なんだよ、方法って。」
頼が身を乗り出す勢いでおじさんに訊ねると、不意におじさんは私に視線を向けてきた。
(────お、おじさん?)
愉しそうに目を細めて微笑んだおじさんが、穏やかな声で私に言った。
「律花ちゃんさえ良ければ、律花ちゃんのお宅に居候させて貰えないか?」