127
分かってた。
本当は、分かってたんだ─────。
「頼、不安にさせてごめん」
頼に言うべき台詞は、もう────・・・。
分かってたのに。
(・・・・泣くな、笑え。笑え、私・・・っ!)
「でも、────私は、大丈夫だから」
この一言が言えなかったのは────・・・・私の我儘だ。
震える声を誤魔化すように明るく振る舞ってみても、頼には全然効果がなかった。むしろ、眉間に皺が寄る。
「“大丈夫”って、何が?」
「・・・・聞いたんだ、舞さんから」
この話はしたくなかった。
頼の口から聞きたくなかった。
怖くて────・・・・知らないふりしていたかった。
(でも、舞さんが困ってたから───頼が反対してるって。)
「────家、売るかもって話?」
頼の言葉にコクンと頷くと、頼が溜め息をついた。
「俺、その話律花にしてないよな?」
「え?・・・うん」
「何でだと思う?」
「なんでって・・・・」
言葉を詰まらせた私に、頼は真っ直ぐな瞳で私を見る。
「行くつもりなんか、ないからだよ」
「え・・・・?」
「家が無くなっても、一人暮らししてでも俺はこっちに残る」
「だけどそれじゃ舞さんが悲しむじゃん」
「・・・・律花は?」
畳み掛けるように、頼が言った。
「俺は、律花が悲しむ方がずっと嫌だ」
(頼・・・・・)
「正直に言って。────律花の気持ち」
悲しいけど。
行って欲しくなんかないけど。
でも“行かないで”なんて────・・・・。
「・・・・・言えるわけないじゃん」
泣きそうな声でそう呟くと、頼も悲しそうに睫毛を伏せた。
「そっか、だよな。────ごめん」
「だって・・・・っ、」
「いや、律花の気持ちは分かってる。今のは俺が悪かった。卑怯な聞き方して、ほんとごめん」
頼がそっと・・・・壊れ物を扱うみたいにそっと、私の頬を両手で包んだ。そしてゆっくり顔を近付けて言った。
「律花、そんな表情すんなよ。・・・約束、したろ?」
いつの間にか流れ落ちていた一筋の私の涙を、頼がそっと指でぬぐってくれた。
『律花、ずっと一緒にいような』────あの時の言葉が勝手にリフレインする。
(頼、────私・・・信じても、いいの?)