126、頼視点
「ちょっ、と・・・・離して」
俺の腕の中から困ったような律花の声がした。
嫌がって、逃げようとする律花に俺はつい意地を張る。
「律花が白状しないと、ずっと離さない」
そう言えば、すぐに白状すると思ったから。
何故なら律花は、俺に触れられるのを嫌がるから。
だから、すぐに白状すると思ったのに───・・・。
次の瞬間、律花が────俺の背中にそっと腕を回した。
「だったら絶対はなさない」
(え?─────“だったら”って・・・・?)
それはずっと離さなくて良いってことなんだろうか?
一瞬そんな都合のいい解釈をしかけた。
(いや、違うよな。“話さない”って言ったんだよな?)
だけど背中に感じる腕の温もりは、間違いなく律花のもので。
(───細せぇ腕、細せぇ身体・・・)
いつの間にか自分より小さくなった彼女に、この細い腰に。
どうしようもなく可愛くて、触れたくて、離しがたくて。
(まいったな・・・・これ、)
本当に離さなくていいんだろうかと戸惑っているところに、自分の腕の中に閉じ込めたままの律花が不意に顔を上げた。
「────頼、」
「ん?」
「試合、頑張ってたね。おめでとう」
「・・・あ、ありがとう」
脳内が「可愛い」で埋め尽くされた。
あの律花が、甘えたような表情を向けてくるなんて・・・・。
ヤバい、これ以上は本当に、俺がヤバい。
早く、白状させてこの腕を離さないと────。
「───で?話、逸らす気?」
理性と闘いながらも俺がそう返すと、律花は少し照れたように目をそらした。
「・・・・あのさ、」
「うん」
「私は頼のこと、喜ばせたりは出来ないし」
「え?」
「さっきみたいに酷い言い方して、いつも頼のこと傷付けてるよね」
一体何の話が始まったんだろうか。
でも、何も突っ込まずにとりあえず俺は律花の言葉を黙って聞いていた。
「・・・・それなのに、私は頼からたくさん貰ってばっかり」
(───律花はいつも、そうなんだ)
「気づいてないかもしれないけど、“幸せな気持ち”───こうやってたくさん貰ってるんだ、いつも」
(そうやって、一人で─────・・・)
「頼、不安にさせてごめん」
(泣くのを堪えて笑うんだ。)
「でも、────私は、大丈夫だから」
(俺を安心させようと─────・・・・)