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「あ!赤下もう帰れるの?そしたら私、先帰るから律花ちゃん送ってあげてねー」
よろしくー、と言いながらそそくさと里桜が帰っていった。
(こんな気まずい空気の状態で先に帰るなんて、里桜ーー!)
里桜の背中に目で訴えてみたけど、やっぱり気づいてもらえず。
残された私と頼を、いつの間にか集まっていた周りの人達がヒソヒソ声で話ながら好奇の目を向けてくる。
「うわ、あれ修羅場じゃない?」
「てかさ、あれが彼女?たいしたことないねー」
「もしかしたら別れ話かもよ!チャーンス」
そんな声が聞こえて、より一層悲しくなる。
(別れ話なんかじゃない!)
そう思い込みたくてぎゅっと目を瞑ったその瞬間、
「行こ」
ぐいっと私の手を引いて頼が歩き出す。
不意に繋がれた手にドキドキ心拍数が上がる。
ああ、やっぱり好きだって再確認してしまう。
人の来ないような廊下に連れてこられた私は、素直に謝ろうと顔を上げた。
「・・・・ごめん、頼さっきは────」
「ハッキリ言えよ」
「え?」
(また、やってしまった───・・・)
傷付けるつもりなんて、無かったのに。
「“俺に関係ない話”、なんて無いでしょ?」
寂しそうな表情で見つめる頼が、私の心を苦しく掴む。
(だけど、頼・・・・)
「隠さないでくれよ、頼むから───・・・・」
隠してるのは────
「・・・頼じゃん」
聞き取れないほどの小さな声が、頼の耳に聞こえることなく零れ落ちた。
(言いたくない・・・・)
居なくなるくせに。
一緒にいようって、言ったくせに。
勝手に居なくなるつもり?
私のこと、嫌いになった?
(そんなの聞けないし・・・・・言えるわけ、ない)
ぐっと奥歯を噛み締めて泣くのを堪えていると、ふわりと身体が包まれた。
「ちょっ、と・・・・離して」
「律花が白状しないと、ずっと離さない」
(頼は分かってない。分かってないよ・・・・)
離して欲しいのは、恥ずかしいから。
好きだから、どうしたらいいのか分からなくなって落ち着かないから。
─────『ずっと離さない』
だけど頼が、私を包み込むから。
優しいぬくもりをくれるから。
(離さないでよ、ずっと)
「だったら絶対離さない」
(ずっと、このままで─────)