123、バスケ
『律!』
最後に託されたパス。
先輩の、最後の大会。
一年の私は、先輩たちの想いを繋ぐためにシュートを放った。
だけど────・・・・私のスリーポイントシュートは外れた。
私の、力不足で。
「じゃ、あとで」
「うん!頑張ってね」
他校との練習試合のその日、いつものように笑顔で私は頼を見送った。頼はいつもと変わらない様子で、試合へと向かった。
そしてその二時間後、私は里桜と会場の体育館へと向かっていた。
「やっと、決心したんだね律花」
「うん・・・・」
私だって。
私だって本当はずっと、頼のバスケ姿が見たかった。
だけど敬遠していたのは、もちろん部外者な自分が行くことで他の女子にあれこれ言われるのも、他の女子が頼のことを応援してるところを見たくなかったのもあるけど。
それ以外にも────自分の過去のトラウマと、向き合わないといけないからだった。
・・・・もう時間がない。
本当に頼が引っ越すのなら、彼のバスケの姿を────もう見られなくなるかもしれないのだから。
(踏み、出さなきゃ・・・・)
────隣の高校の体育館で、試合は行われた。
体育館でのバッシュの音、バスケットボールが跳ねる音、歓声。
全部が懐かしくて、胸が熱くなって。
同じくらい、切なくもなる。
(・・・・でも、来てよかった。)
バスケをしてる頼の真剣な姿を見た瞬間、心が高ぶった。
「うわ、赤下ファン多いね!」
「え?」
男バスの試合会場なのに、観客なのか女子が多くて少しホッとしたところで里桜が言った。
「だってほら、みんな目がハートじゃない?」
「う・・・・」
よくよく見てみると、確かに女子の視線の先には頼の姿があった。
(そういうこと───・・・?)
「はいはい。いちいちヤキモチ妬かないの!赤下の彼女は律花ちゃんなんだから!ね?」
「や、ヤキモチなんか・・・・っ」
まさに図星をつかれて動揺する私の背中を里桜がグイグイ押す。
「ほら、バスケ部に顔出してあげるんでしょ?行こ?」
「ちょ、里桜っ!?」
「おつかれさまでーす」
里桜はまったく動じることもなく、バスケ部の輪の中へと入っていく。里桜の声にこちらを向いた男子バスケ部の部員たちがどよめいた。
「えっ、笹野里桜ちゃん!!?本物?」
「うわ、マジで可愛い!」
「おい!赤下っ!彼女かよ!?」
最後の一言に、里桜の隣に居た私はズキンと胸が痛んだ。
あぁ・・・・そうだよね。
そう思っちゃうよねフツー。
里桜と頼は、人の目を惹くもんね・・・・。
お似合い、だよね。
「はい、“彼女”ですよ!」
「・・・え、ちょっ」
やさぐれていた私の腕を突然引き寄せたのは、頼だった。引き寄せられた私はそのまま頼の真横に密着する体勢になってしまう。
(・・・・なにこれ、近いってぇ!!)
真っ赤になりうつ向く私の隣で、里桜が明るく言う。
「私は“彼女の”付き添いでーす」
「そっか!じゃあ笹野さんは彼氏とかいないの?」
「そうですね、いません。私いま好きな人に片想い中なので。」
「マジかよ、そんな男いんのかー?」
「律花、」
里桜の話にざわつき始めた部内の男子たちを尻目に、頼が私の耳にそっと囁いた。
「来てくれて、ありがとな」
「う、ん・・・・」
頷くだけしか出来ない私の頭をくしゃっと撫でて、頼は声をあげた。
「じゃ、やりますか!」
やる気に満ちた頼の表情に、胸がドキンと跳ねて。
────それと同時に・・・・苦しくなった。
(ねぇ、頼は─────どうして話してくれないの?)