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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
13/140

13@頼視点

(ああ…、やらかした…)


律花の少し先を歩きながらひたすら猛省していた。

まさか彼女に遭遇すると思わなかった俺は、驚きのあまりつい“()”になっていたことに気が付かなかった。


(―――口調も、態度も気を付けて(● ● ● ● ●)いたのに。)


高校に入ってもう一度彼女に会えるのなら、今度は“男として”見てもらおうとかなり頑張って背伸びしていた。


(…それなのに、―――完全に油断した。)


頭がクラクラして、まるで夢の中かのようにフワフワする。

いや・・・もしかしたらこれは夢の中なのかもしれない。


そう思っていた矢先―――

『頭大丈夫?熱でもあるんじゃないの?』

―――律花のこの一言で、現実に引き戻された。

やばい、やっぱり現実だ。

今、自分が何を口走ったのかさえ覚えていない。


(俺、墓穴掘ってないだろうか・・・?)


不安になって恐る恐る律花の様子を窺ってみたが、特に変わった様子はない。彼女の顔がほんのり赤い気もしたけど、ジロジロ見ていたら視線に気付いた律花が怪訝な顔をしたのですぐに目をそらす。


(―――大丈夫、か…。)

杞憂だったのかと、胸を撫で下ろすと律花の家に着いた。



「ただいまぁ。って…あれ?」


当たり前のように玄関を開けようとした律花は、鍵がかかっていることに少し動揺した様子だった。


「なんで…?…出掛けてるし…」


持っていた家の鍵を使い玄関を開け、そこに置かれていた弥生さんの書き置きのメモを見つけて律花は明らかに動揺していた。


“ちょっと買い忘れたものを買ってきます”

律花の手から、白い紙に大きく書かれた弥生さんの文字がチラリと見えた。


「マジか…」

俺もまさか弥生さんが出掛けているとは思わず、途端に二人きりの空間だと意識してしまう。

緊張で心臓がバクバク煩い。


(本当に…やばいな。)

酸素が足りないのか、軽いめまいがして足元がふらつく。


「・・・待ってる気?」

こちらを振り返ることなく、低い声で律花が問い掛ける。


(・・・すごく嫌そうだ。)


予想はついていたのに、やはり悲しい。

だが、ここで引き下がるわけにはいかない。彼女との接点は、もう何一つ無駄にしたくないから。


悲しさをなんとか押し込めて、俺は平然とした態度で答えた。

「すぐ帰ってくるだろ?待たせてもらうよ」

「あそ」

律花は短くそう答えて、靴を脱ぐとひとり玄関をあがっていく。まるで、勝手にしろと言わんばかりに。


「なぁ、普通はリビングとかに案内してくれるんじゃねぇの?」

「はぁ?どんだけ図々しいの…よ、」

振り返ってそう言い返す律花の視線は、俺の手元で止まっていた。


あ、やばい…と思ったときにはもう遅かった。


「ねぇ、それ…何?」

律花が、じっと俺の手元を見つめ、指を差す。


俺の手には、先ほど受け取った夕御飯の御裾分けの入った紙袋と、それとは別に、ドラッグストアのロゴが入った小さなビニール袋。


律花が指しているのは、そのビニール袋の中身。


「―――別に。」

咄嗟にそれを後ろ手に隠してそう答えたが、玄関に立ち尽くしていた俺の目の前にいつのまにか律花が立っていた。

玄関の段差のせいで、目線がほぼ同じになる。


「何…」

何すんだよ…と言いかけた口が、というか―――息が、一瞬止まった。


律花が俺の額に、手を伸ばしてきたからだ。


(ち、近いよ!律花ちゃんっ!?)


「ちょっと…、本気で熱あるじゃん…っ。」

彼女は俺の額から手を離すと、真剣な顔をして怒った。


「気のせいだって・・・」

律花ちゃんのせいだよと心の中で叫びながら、目をそらしてそう答えるのが精一杯だった。


「・・・そーゆーとこは変わってないとか、バカじゃないのっ!?」

「…バカじゃないよ。勉強なら律花に負けない自信あるし」

そう言い返すと、律花がさらに呆れた顔をする。


「やっぱ馬鹿。そういう意味じゃないっての。」

「馬鹿馬鹿ってさぁ…」

(律花ちゃんだって、バカだろ・・・)


だって気付いてないんだから。


「あがって。どうせ立ってるのも、(つら)いんでしょ?」


昔からそうだった。

普段素っ気なくて無愛想なくせに、本当は…困ってる人を放っておけないお人好し。


―――ガードが堅そうで、実は隙だらけ。


(だから放っておけないんだよ…気付けよ馬鹿。)

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