122、里桜視点
「律花・・・?」
駆け足で階段をあがってきた律花が、突然ドアを背にしてしゃがみこむ。
私はそれを、驚いて見ていた。
「大丈夫・・・・?」
背中にそっと手を置いて、私は律花に優しく声をかけた。
律花はいつも強がりで泣いてるところを見せないのに、これは一体どうしたんだろうと────私はとても驚いていた。
「頼────引っ越すかも、しれないって」
小さな声だったけど、律花がそう言った。
「うそっ!赤下、引っ越すの?」
「家は・・・売るみたい。だけどそうなったら頼も・・・・っ」
「・・・・そっか」
(それは寂しいし、悲しいし、つらいよね・・・・。)
赤下の隠し事って、それか。
全く・・・・何やってんだか。
律花ちゃんを不安にさせるなんて。
「でもまだ、いつとか決まったわけじゃないんでしょ?」
「・・・・そ、だけど・・っ」
(ああ・・・ごめんね、律花)
赤下のことを想って無邪気に泣く律花の姿に、私は少しだけ嬉しくなった。
だって律花が────こんなふうに素直な処見せてくれるのは珍しいから。
(私のこと、信頼してくれてるって思ってもいい?)
顔を伏せたまま涙を流す律花ちゃんに、私は明るく声をかけた。
「赤下も、律花ときっと同じ気持ちだよ?」
私の言葉に、律花がやっと顔を上げた。
「え?」
「だって赤下だよ?絶対、律花と離れたくないって思ってるに決まってるよ!」
「・・・・・・」
「大丈夫!赤下のこと、信じてあげなよ!」
「里桜・・・・」
律花。
もっと周りを頼ってよ。
律花は独りじゃないんだからね?
私はずっと、律花の傍にいるんだから。
そう言う代わりに、私は明るく笑う。
「っていうか、私がいるじゃん!」
わざと拗ねてみせると、律花ちゃんの表情がやっと少し柔らかくなった。
「ごめん・・・・」
「ふふ。まぁそれは冗談だけどさ」
そう言いながら、私がいま律花のために出来ることを考えて思い付いたことを提案する。
「あ、そうだ!3日後のバスケの試合、観に行くか決めた?私も一緒に行くから、行こうよ」
律花ちゃんはまだ一度も、赤下のバスケの試合を観に行ったことがなかった。赤下のバスケしてるところは見たいくせに、なかなか勇気が出なかった。
その理由は多分、赤下の人気ぶりを目の当たりにしたくないとか、他の女子から向けられる“赤下の彼女”という視線が痛いからとか。
────でもそれだけじゃなくて。
(中学時代のアレ、まだ引きずってたり・・・・するのかな?)
「────里桜、ありがとう」
「どういたしまして」
中学時代バスケ部で活躍してた律花ちゃんは────ある日突然部活を辞めた。