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「あ、花火始まった!」
ドンと胸に響く重低音に、私は声をあげた。
(・・・・あの日以来だ。)
最後にこの夏祭りに来たとき、私は兄から大学進学によって家を出ることを告げれられた。
『ずっと一緒には、いられないんだよ』
『どうして?だってお兄ちゃん私のこと好きでしょ?大切なんでしょ?』
『────ごめんな』
兄は苦々しい笑顔でそう言った。これ以上は困らせるだけだと、幼心にもそう感じて私は口を閉ざした。
(また、私から離れていくんだ・・・・)
「綺麗だね、頼・・・・」
「そうだな・・・・」
花火を見ても、そんな当たり前の台詞しか言えない。
ぽっかり空いた穴は、簡単には埋まらない。
(だから、ダメなのかな・・・・)
「律花、」
「ん?」
頼に呼ばれてふと顔をむけると頼の手が頬にそっと触れた。
(えっっ!?)
「・・・好きだよ」
─────二度目のキスも、不意討ちだった。
目を閉じる隙もなく、あっという間だった。
「なっ、」
なにしてんの?
てか、なにすんの?
外だよ、人たくさんいるんだよ?
───じゃなくて、私にも心の準備ってもんが!!
言いたいことが一気に頭の中でシャッフルされて、何から言えばいいのか困惑する私に、頼が困ったように目を逸らす。
「ごめん」
「謝るくらいならしないでよっ」
って、違う!!
そんなこと言いたかった訳じゃなくて。
ああ、どうしていつもこう反射的に可愛げのないことばかり言ってしまうんだ私のバカ!
猛省する私に、頼が目を逸らしたままポツリと言った。
「だって律花が・・・」
「私が、なに?」
「いや。・・・・・律花がかわいいから、つい」
苦し紛れに言ってるようにしか、見えないんですけど?
嘘下手くそか!
私がそんなの、信じると思ってるわけ?
そんな毒舌をブツブツ心の中で唱え続けていると、不意に頼が私の顔を覗き込む。
「な、によ?」
「律花、顔真っ赤」
そう言って満足気に、頼が微笑む。
悪かったわね!
真に受けたくなくても、勝手に反応しちゃうんだよ!
かわいい、とか言われ慣れてないから素直に喜んじゃうじゃんか!
「も・・・見ないで・・・」
恥ずかしくてプイと顔を背ける私に、頼が首をかしげる。
「どうして?」
「俺は花火より、律花の方見てたいんだけど?」
「なっ!?バカじゃないのっ?」
思わず、睨むように視線を上げると頼が私を見つめていた。
────真剣でそれでいて優しい、暖かな瞳で。
「律花、ずっと一緒にいような」
「・・・は?」
何で突然そんなこと言うの?
急に、何で?
そんな疑問が浮かんだけど、それよりも────。
「泣くなよ、律花・・・・」
「───だって、」
(なんで?)
その台詞はまるで、私の心の穴を塞ぐみたいに───。
(私、ずっと欲しかった。・・・聞きたかったんだ。)
────自分にとって大切な人の、かけがえのない大切な人になりたかった。
“ずっと一緒”・・・・・・そう、ありたいと願ってた。
(なんで、分かっちゃうの?────頼・・・・)