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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【6】恋人
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118、頼視点


『────・・・・じゃあ、あれ。』


律花の指差すところを目で追うと、そこは食べ物の出店ではなかった。

『射的?』

『うん。頼が取ってよ、なんでもいいから』



────なんで律花がそんなことを言ったのかなんて考える訳もなく、俺は言われた通り射的の出店へと足を踏み入れた。


「これのどこがぬいぐるみなのよ」

景品のブタの貯金箱を高くかかげて、からかうように律花が言った。


射的は想像以上に難しく、結局自分の予告したぬいぐるみにはかすりもしなかった。唯一奇跡的に取れたのが、このブタの貯金箱だ。


「うるせーなぁ、取れたんだからいいだろ!」

カッコ悪いところを見せてしまって不貞腐れる俺に、律花がフッと笑った。


「ん、ありがと」


(っっ!!!!!!)

その優しい笑顔に、心臓が射ぬかれた。たまにこうして見せてくれる無邪気な笑顔は、本当に可愛い。・・・・誰にも見せたくないくらい可愛いんだ。


(手、繋ぎたい。手ぐらいなら、触れても許されるか・・・・?)


────楽しくて、浮かれて。俺は舞い上がっていた。

自分ばかりがそんなことを考えていて────。


「律・・・・」

「ん?」

手を繋ぐための許可を得ようと声をかけて律花の横顔を覗き込んで・・・・少し元気のないことに今、気がついた。


(“怒ってない”、とは言ってたけど────)


笹野が居なくなってから急に、口数も減った。


俺と二人きりは────嫌だった?

やっぱり・・・・悠くんと────居たかった?


相変わらず、そんな女々しいことを考えてしまう。


「悠くんと、さっき何話してた?」

「・・・・別に、なんにも?」


律花ちゃんは───悠くんが地元を離れたところの大学に進学する時も、こんな表情してたから。 


(───寂しいくせに、寂しくないって表情(かお)だ。)






当時、────俺達はまだ小学生で。

保護者代わりにいつも傍にいてくれた悠くんが居なくなってしまうのは、俺も幼心にショックだった。


(そういえば、あの時だ────・・・・)


小学生だった律花と俺はこの夏祭りには毎年、悠くんが保護者として付き添ってくれていた。小学五年の夏祭りが、悠くんと来た最後の夏祭りだった。


律花は悠くんに食べ物屋の出店を片っぱしからねだった。

それは今思えば・・・・寂しさを紛れさせようとしていたのかもしれない。


(俺が、居るのに・・・・)


悠くんみたいになりたいと思ったのは小学生の俺から見た当時高校三年生だった悠くんがものすごく大人に見えたから。

あんな(ひと)になりたいと憧れていた。

悠くんみたいな人になれたら、きっと律花は────俺を好きになってくれる・・・って。


一時は忘れようとした律花への想いは、ずっと心を縛り付けていた。忘れることなんて出来ないと開き直ってからは背も伸ばしたくてバスケ部にも入ったし、牛乳もたくさん飲んだ。勉強も、頑張ってきた。────悠くんという理想に、近付こうと努力はしてきた。


(なのに・・・・)


「あ、花火始まった!」

花が舞う夜空を見上げて、律花が嬉しそうに声をあげた。

だけど分かるんだ、────いま無理してること。


「綺麗だね、頼・・・・」

「そうだな・・・・」


すぐ隣にいる律花ちゃんの心は、自分からずっと遠くにあるみたいだった。



(あの日───・・・・みたいだ。)





『なんで俺にも声かけないんだよ』


職員室からクラス全員分の課題を預かり両腕の上に積み重ねたものを抱えて歩いていた日直の律花は、俺の言葉に立ち止まることも、振り返ることもしないでスタスタ歩いていた。

目の前に早足で回り込んで立ちはだかり足を止めさせる。


『貸して。俺が持つから』

(────あの時も、そうだった。)


『大丈夫、このくらい一人で持てるから』

視線を落としたまま、素っ気なくそう答える律花ちゃんがとても遠くて。悲しくて悔しくて───無性に腹が立った。


『かわいくねぇな・・・・』

『・・・・どっちが。』


思い出してしまった────あの、再会した時に感じたみたいな孤独感や、うまくいかずやり場のない苛立ちや焦り。


(好きだから・・・)


───自分を意識して欲しくて。

───男として見て欲しくて。


自分のことだけ、考えていて欲しくて───優しい君につけこんだ。


「律花、」

「ん?」


こちらを見上げた律花の頬にそっと触れて。


逃げられる前に────素早くキスをした。


「・・・好きだよ」


────今度はそう、口で伝えて。


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