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兄に続いて知哉さんもいなくなって、更に里桜まで帰ってしまった。
(や、そりゃ二人で行きたいとは思ってたけど・・・っ!)
急な展開に、心臓がついていかない。
(───どうしよう・・・何話そう・・・)
「───なんか怒ってる?」
無言で人混みを歩いていると、隣を歩く頼がふと口を開いた。
「え、別に怒ってないけど?」
ドキッとして口が勝手にそう答えてたけど、自分の感情がどうかなんて今考える余裕もない状況だった。
二人きりなんて、今までさんざんあったことなのに。
というか、日常的なものなのに。
(い、意識しすぎ?────っていうか、それより)
「頼こそ・・・なんか不機嫌じゃん」
「そんなことないし」
独り言レベルでボソッと言ったのにバッチリ聞こえていたらしく、即答された。
(でもその言い方がまた、不機嫌そうに見えるんですけど?)
「・・・・・」
「・・・・・」
えーっと・・・・
気付かないうちに私、なんか頼にした?
そりゃ知哉さんとかお兄ちゃんとか里桜とか、押し切られてここまで一緒に来ちゃったけど。
でもそれについてはもう謝ったし。
え、まだ怒ってるとか・・・・?
「なんか欲しいものある?」
ぐるぐると頭の中で考え事をしていた私に、少し屈んで頼が耳元に唇を寄せる。
「!!?」
(ぅわっ!何すんの突然!)
少し頼から離れるように反射的に体を反らしてしまう。そんな私の反応に、頼は益々不機嫌になる。
「・・・折角だし、なんか奢る」
「え、いいよべつに。」
「遠慮すんなって」
ハッキリした理由は分からないままだけど、拗ねたままの頼を放っておくのはまずい。
奢りたい、という気持ちを断るのもまた頼を拗ねさせてしまう気がして私は辺りの出店を見渡した。
「────・・・・じゃあ、あれ。」
目に留まった出店を指差すと、頼が目で追う。
「射的?」
「うん。頼が取ってよ、なんでもいいから」
「たこ焼きとかかき氷とか食べ物じゃなくていいのか?」
「私のこと、どんだけ花より団子と思ってるわけ?」
睨むようにしてそう返すと、頼がやっと笑った。
(ちょっ!!その不意打ち、心臓に悪いから!)
頼の笑顔を見たらキュンと胸が甘苦しく締め付けられるんだ。毎回毎回、その不意打ちやめて欲しい。
「ちょっと、いつまで笑ってンの!」
「あーごめんごめん。律花と言えば食べ物系制覇だよなと思ってさ」
「それ、小学生の時でしょ!?」
まぁ確かにあの時は────かき氷も綿菓子もたこ焼きも全部食べてた気がするけど。それに幸せを感じてたけど。
現在は・・・──────。
(・・・・食べ物はカタチとして残らないじゃん)
「じゃあ、あれ取るから見てろよ!ブタの縫いぐるみ!」
(ねぇ・・・・頼─────)
頼のその笑顔は記憶に残るけど手元に確かなカタチが欲しい────なんて、私はやっぱり弱いままなのかな。
『いいよね、家が近いってだけで好きになってもらえて』
でもそこに残る何か確かなものが一つでもあれば、幸せなんだ。
『────律花・・・じゃあ、な』
─────いつか、夢から醒める日が来ても。