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(び、っくりした…っ!)
頼は相当驚いた様子で私を見ていたが、こっちだってまさか後ろから本人が現れるとは思っていなかった。
急な出来事につい照れ臭くなり、可愛くないと思いながらも横柄な態度でずいと紙袋を突き出してしまった。
「ん。」
鼻からそんな、くぐこもった声を出す。
「え?」
キョトンとしている頼に一瞬胸がきゅんとなりかけて、私は慌てて目をそらす。
「…舞さん、居ないんでしょ?これ、夕御飯。」
「ああ…。ありがとう?」
私の言葉が足りなかったのか、とりあえず私の手から紙袋を受け取ったものの、頼はいまだに状況が呑み込めていないようで、どこか上の空だ。
(こいつ…動揺しすぎてるから、なのか?なんか…――“おかしい”?)
今日の口調も、態度も、――――どこか懐かしく感じてしまうのは、気のせいだろうか?
(こっちの方が、頼らしい。)
昨日の頼より今日の頼の方が、私のよく知っていた彼に似ている。
―――いや、本人なのだから“似ている”というのはおかしいか。
(私も、動揺し過ぎか?)
用件も済んで、黙ってその場から立ち去ろうとした私に、頼が声をかけた。
「待って律花ちゃ…」
(は?―――“律花ちゃん”?)
昨日はいきなり呼び捨てしたくせに、今日は昔みたいに“ちゃん付け”?
相当混乱してるのかこいつ。
…―――それとも、これも“嫌がらせ”?
(嫌だ…)
胸の鼓動が、早く逃げろと云ってる。
傷付きたくないなら、早く―――。
私が急いで走ろうと足を踏み出した瞬間、頼が私の肩をつかんだ。
「待てって」
びっくりして心臓が跳ね上がった。
(つかまれたっ!…肩、つかまれてた…っ!)
そう意識したら、触れられたところから火が出てるみたいに熱くなっていく。
「なっ、何よ?私の用は済んだからもう帰りたいんだけど」
肩から火が燃え移ったように、顔まで赤くなっていた私は顔を上げることが出来ず、ぶっきらぼうな態度でそう言うのが精一杯だった。早くこの場から居なくなりたいと、そればかり考えていた。
「あ、・・・ごめん。」
私の肩から手を離した頼が、我に返ったように小さな声で呟いた。
「―――嬉しくて…つい。」
「は?」
頼の言葉に、私の目が点になる。
聞き間違い?空耳?
(“嬉しくて”?こいつ、何言ってんの?)
「頭大丈夫?熱でもあるんじゃないの?」
「…家まで送るよ」
私の心配を華麗に無視して、頼がそう言いながら私の家へと歩き出す。
「いやいや、送られる距離じゃないでしょ。」
真顔でそうツッコんだ私に、ムッとした表情になった頼が言った。
「弥生さんにお礼言いたいだけだから。」