114、夏祭り@頼視点
『今週末の夏祭り・・・一緒に行かない?』
映画の始まる直前────俺は勇気を振り絞った。
偶然西野に会ってしまったせいで、すっかり元気をなくしてた律花にそう言ったのは。自分なりに、律花に気持ちを伝えたかったから。
『────行く・・・』
照れたような、困ったような・・・・複雑な表情で。
だけど、律花は珍しく素直に頷いてくれた。
『うん』
この時俺がどれだけ嬉しかったか、────律花は絶対分かってない。
「律花ちゃん?・・・・コレ、どういうことか説明して?」
怒りをなんとか抑え込んで笑顔を作る。
夏祭りは夕方からだったが待ちきれなくて少し早く律花の家に入ると、そこは思わぬ人物がすでに居たのだ。
「や、だから・・・・おばあちゃんの所から今日ちょうど帰ってきてて。帰ってきたら遊ぼうって約束してたからそれで・・・」
少し申し訳なさそうに上目遣いしてくる律花は、とてつもない破壊力だ。
しかも、見慣れない紺地の浴衣姿。
眩しい、かわいい、今すぐ連れ去りたい。
(って・・・危ねぇ、危うく惑わされるところだった)
意識を持ち直して、律花の隣ですましている笹野に視線を移す。
「笹野、お前夏祭りは譲ってくれるとか言ってなかったか?」
「うん、気が変わったの!」
エヘッといつもの媚びまくりの笑顔に余計にイラッとした。
こいつ、気分屋か!
「あれぇ、里桜ちゃん」
さらにリビングにひょこっと顔を出したのは────アイツだ。
今一番視界に入れたくない、男。
「知哉さん。え、まだ居たの?」
「酷いなぁ里桜ちゃん、久しぶりに会ったのに」
悠くんの友達に笹野が毒を吐いたのは、意外で驚いた。でもそんな笹野の言葉にも驚くこともなくヘラヘラ笑うこの男・・・・。
爽やかに笑いながら、笹野だけでなく律花にも視線を向ける。
「浴衣似合うねぇ、二人とも可愛い可愛い。」
(か、可愛いとかサラッと言うなよ・・・コイツ!)
「あ、もしかして今日って夏祭り?いいねぇ、俺も一緒に行く!」
「「えっ?」」
絶句する俺と律花を無視して、リビングに入ってきた悠くんに声をかける。
「なぁ、悠も行こうぜ」
冗談じゃない!
なんで律花と二人で行くはずの夏祭りをこんなヤツに邪魔されなきゃならないんだ!
「おい!何とかしろよ、笹野。」
そもそもの邪魔者、笹野になんとか彼らを回収してもらおうとボソッと小声で頼む。
「いいじゃない、大人数の方が楽しくて」
(コイツ・・・・嫌味なほどニコニコしながら言いやがって。)
「律花も、悠さんがいた方が嬉しいんじゃない?」
「それは・・・・」
(────そうかもしれないけど・・・。)
でも、それは認めたくなくて・・・・・頷きたくなかった。
「頼?・・・・ごめん、ね?」
「律花・・・・」
俺のシャツの裾にそっと触れて、律花がこちらを見上げる。
(あのなぁ!それ、反則だから!)
そんなことされても、今邪魔者だらけだし。手、出せないし。
こないだも、未遂で終わってんのに。
「おーい、まだぁ?」
「あんたが仕切るな!」
すべての苛立ちをつい、金澤知哉にぶつけてしまった。
「律花ちゃん、こぉんなキレやすいガキなんてやめて俺と付き合お?」
「は?あんた、」
ヘラヘラ笑いながらそんな台詞を吐いてくるから、つい頭に血が上りかけたその時・・・・悠くんが低い声で静かに言った。
「・・・・知哉冗談でそういうこと、二度と言うな」




