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『頼の隣に住めてたのが私だったら、今だって私と付き合っていたはずなのに』
・・・・そんなこと言われたら、想像してしまう。
────頼と西野さんが幼馴染みで、私がただのクラスメイトだったらどうだったんだろうって。
(きっと・・・・私は頼に見向きもされなかったんじゃない?)
(“違う、そんなことない”って口に出せなかったのは・・・自信がなかったからだ。)
幼馴染みで良かった、と思うのと同時に悲しくなった。
私は頼と家が近くて、親同士が仲良しで。
────それがなかったらと思うと・・・・・。
(西野さんの言う通りかも、しれない・・・)
「律花、ほら!ポップコーン買ってきた」
映画館で頼がLサイズのポップコーンとジュースを2つ買ってきてくれた。私はハッとして顔を上げると笑顔を作る。
「・・・うわ!デカっ!頼こんなに食べれるの?」
「食べれるよ。でも、律花も食べていいよ」
「うん、ありがと」
うまく笑えてなかったのか、頼は見透かすようにじっと私を見つめてくる。
「・・・気にしてる?」
「え?」
「さっきの・・・西野の存在」
「気にしてないよ・・・ 」
目をそらしてしまった時点で、頼には嘘だと見破られてるだろうけど・・・・・それでも私はそう答えた。
「だって、もう過去の話だし。」
「・・・・うん」
頼はそれ以上何も言わなかった。
“過去の話”だから、“気にしてない”─────まるで、自分にそうあるべきだと言い聞かせてるみたいだ。
(本当は、ずっと・・・・思い出さないようにしてた)
あの子とは手を繋いだの?
キスしたの?
────“付き合ってた”ってどんな風に?
西野さんが頼のことを本気で好きだったことも。
私より先に頼のことを一人の男の子として意識してたことも。
・・・知ってたから余計に気になってしまう。
(ダメだ、これ以上は・・・・やめないと)
────考えたって、良いことは何もないのだから。
「あのさ、律花」
「ん?」
並んで座るとスクリーンに映画の予告が流れ始めた。そのせいか、頼が少し私の方に顔を寄せる。
「今週末の夏祭り・・・一緒に行かない?」
(どうしよう・・・・)
「────行く・・・」
「うん」
すごく嬉しそうに笑った頼に、私はまた心臓が甘く締め付けられて苦しくなった。
(どうしよう・・・・もう引き返せない・・・・)
“幼馴染み”がきっかけで、こんな私を好きになってくれた。
“幼馴染み”だったから、こんな私のことを知ってくれた。
────仮に、頼がそうだったとしても。
私は・・・・・幼馴染みでなくても頼のことを好きになっていたと思う。
(もう、頼を諦めたくない・・・・・)
友達のままなら壊れることもないと信じてたけど。
いつかくる別れが怖くて逃げてたけど。
いま、こうして隣にいられる時間をずっと手放したくないという欲張りな気持ちが芽生えてしまった。
(ずっと一緒にいたいよ、頼。)