112、映画デート
夏休みの昼過ぎ、私は駅前にいた。
今日は頼が部活が午前で終わりだから、これから待ち合わせて映画を観に行くことになっている。
昨日の今日だから、本当はどんな顔をして会えばいいのか分からない。
結局引き留めようとしてくれた舞さんをなんとかかわして、自分の家に帰ったけど。
(あの────瞬間が、頭から離れないよ!!)
「律花?」
一人で思い出して悶えていると、いつのまにか頼が姿を現していた。
バスケ部指定のジャージ姿に、勝手に心臓が反応してしまう。
「お、お疲れさま・・・」
「うん。てかごめん、着替える時間なくて」
直視できない私に、頼がすまなそうな声で言った。
「なんで?別に気にしなくて良くない?」
「・・・・そ、ならいいけど。」
私の言葉に、少し拗ねた頼。
もしかして、初デートだからとか────気にした?
勝手にそんな事を考えて、赤くなる私はもう重症だ。
(な、なにを喋ろう・・・・)
「・・・・」
「・・・・」
ぎこちない空気に押し潰されそうな私に、突然頼が噴き出すように笑った。
「なによ?」
「いや、別に。」
照れ隠しに睨み付けると、笑いながら頼が答える。
「笑わないでよ!」
「だって可笑しくて。俺ら、緊張しすぎじゃん?」
(・・・え?頼も、なの?)
意外なことに驚いて顔を上げると、赤くなった顔を手で隠す頼の、やさしい眼差しが私を見つめていた。
(───一緒・・・・だ。)
私だけじゃないって思ったら、私も少し緊張が溶けて。
口元が緩む。
────ずっとずっと・・・・この瞬間が続きますようにって、そうひそかに願った。
「あ、頼じゃん!」
────だけど、願った途端にそれは崩れた。
「ちょっと、シカトしないでよー」
可愛らしいミニスカート丈のワンピース姿の西野さんが、高いヒールの音をコツコツと鳴らして頼に近付いてきた。
(・・・・夏休みなのに、こんな偶然ある?)
西野さんにはもう・・・・ずっと会ってなかったし───正直、会いたくなかった。
だって頼と西野さんは─────付き合ってたから。
さっきまでの幸せな気持ちが一気に地の底まで沈んだ時、私を隠すように頼が前に立った。
「見てわかんねぇ?邪魔なんだけど」
今までの頼からは考えられないくらい、女の子に対して冷たい態度だった。
「頼ったらこわぁい。挨拶ぐらいしてくれてもいいのに───ね、律花ちゃん?」
西野さんはそう言うと頼の横をすり抜けて、その後ろにいた私のすぐ横で立ち止まる。
そして頼に聞こえないくらいの小さな声で、───言った。
「いいよね、家が近いってだけで好きになってもらえて」
「そ、」
(そんな・・・・こと、ない)
「頼の隣に住めてたのが私だったら、今だって私と付き合っていたはずなのに」
苛立ちをぶつけるみたいにそう吐き捨てて、西野さんは立ち去った。
(そんなこと、ない・・・・)