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『────ところで夜も遅いし、律花、自分の部屋で寝たかったら帰って寝てもいいよ』
私の心は、頼に支配されていて─────頼の言葉に、心が全部反応するんだ。
「・・・・っく」
緊張の糸が切られたみたいに、涙は止まらなくて。
涙を止める方法は、思い付かなかった。
「律花・・・・泣かないで」
こわれものを扱うみたいに、そっと─────頼が自分の腕の中に私を包み込んだ。すっぽりと頼の身体に包まれて、私は息をするのも忘れていた。
「俺・・・・なんか、嫌なこと言った?」
頼の声が、頼の胸の音と一緒に聴こえて。
ううん、と声を出すのも恥ずかしくて、ただ首を横にしか振れない私に頼が少し困ったように笑う。
「・・・そっか」
心臓がバクバクと激しく音をたてて苦しい・・・。
心臓が壊れてしまいそう。
なのに不思議と─────心地よくも感じていた。
「嫌なことあったら、話して。律花はいつも自分の中で解決しようとするから」
頼の言葉に胸が熱くなる。頼は────いつも優しい。
そっと顔を上げてすぐ目の前の頼を見上げると、頼がそっと私の頬に手を伸ばす。涙のあとをそっと拭いながら。
「・・嫌?」
小さくそう訊ねる頼に、私は答える代わりにそっと目を閉じた。
心臓が、ギュウッと甘く締め付けられる。
キス、される─────・・・・そう思って。
頼の吐息を口元に感じたその瞬間────。
「たっだいまぁ!・・・え・・・あら?」
元気よくリビングに姿を現したのは─────頼のママ、舞さん。
「舞さん、お、お久し振りです」
まだドキドキが鎮まらない心臓を押さえながら、とりあえず立ち上がって挨拶する。
「え、ちょ・・・うそ!?やっだー!?
律花ちゃん?こんなにキレイなお嬢さんになってぇ!」
久しぶりの再会に飛び上がるほど喜んだあと、舞さんが何かに気がついたように私の顔をまじまじと見つめる。
「・・・・って、何泣かせてんのバカ息子ー!」
「あ、」
違うんです舞さん・・・・という私の言葉は間に合わず、舞さんの鉄拳が頼の頭上に振り下ろされた。
「っってぇ!!!!」