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『それ────やきもち、ですか?』
『デスネ。』
自覚はあったのに、────頼は知哉さんに嫉妬してるって。
「あの人のこと、気になるの?」
頼にそうポツリと言われて、私はハッとして反応する。
「ち、違うって。そんなんじゃないから」
「・・・“いろいろあった”って、言ってたじゃん」
「それは───私の口からは言えないけど・・・・」
だって、それは里桜の話だから。
私は当事者じゃないから、勝手に話すことは出来ない。
だけど目の前の頼の表情が不安げに曇って、胸が締め付けられる。
暫くして、頼が俯いて静かに口を開いた。
「・・・・・昨日、」
「ん?」
「悠くんに会って、向こうで一緒にプール行ったことは聞いた」
「・・・そっか」
「俺は、律花の口からそんなこと何も聞いてない。」
「・・・・ごめん」
拗ねた口調の頼に、私は素直に謝る。
向こうにいる間、お兄ちゃんとの再会とか里桜の気持ちとか────本当にいっぱいいっぱいで。
「────律花のことは信じてるけどさ。だけど何も話してもらえないと不安になる。」
「うん。言いそびれてごめん。」
いつのまにか、頼との距離が近くて。頼の目を見れずに顔をそらしてしまった。
「試合・・・・残念だったね」
「うん」
「次は応援に行くよ・・・多分」
「多分てなんだよ」
少し元気を取り戻した頼が、笑った。
「だって迷惑じゃない?部外者が────」
「律花は部外者なんかじゃない。」
頼が真剣な眼差しで、私を見つめながら言った。
「───俺の彼女だから」
その瞬間・・・・心臓が全部盗られた気がした。
(意識、しちゃダメなのに。頼のこと、男として意識しちゃう)
このままじゃ、気まずい。
頼は何もしないと言ってたけど“恋人”なんだし、二人きりだし。
これ以上ドキドキさせられたら、心臓がもたない!
とりあえず話題!
話題を探さないと!
「あ!明日、映画行くんだよね?」
「何か観たいのある?」
「こないだDVD借りてきた洋画の続編は?」
「良いね」
普通に会話できて、少し落ち着きを取り戻していた私に頼が言った。
「────ところで夜も遅いし、律花、自分の部屋で寝たかったら帰って寝てもいいよ」
「・・・え・・」
殴られたような、ショックが私を襲った。
「や、さっきはさ。あの悠くんの友達といるのが嫌でつい連れてきちゃったけど」
「・・・・・」
「別にあの人と同じ部屋で寝るわけでもないし、こっちで寝るのは律花も嫌でしょ?」
私も頼に会いたかったし、話したかった。
話せたから満足なはずなのに、“帰ってもいい”と言われた途端に、その言葉が突き刺さったみたいに。
───どうしようもなく寂しくなった。
「・・・じゃないよ」
(まだここに居たい・・・って、思うのは迷惑?)
「律花?」
────涙が溢れて、止まらなくて。
「え、ちょ・・・律花ちゃん?」
(私、どんどん我儘になっていく・・・・)




