109@頼視点
初めて会ったときから、気に食わなかった。
────律花と仲良さそうなのも、こっちを見下したような態度も。
『で、俺今日ここに泊めてもらうから』
────当たり前に律花と過ごそうとしてくるところも。
何もかも、────全部気に食わない。
『律花ちゃんは、』
どうせ俺はガキだよ。
余裕なんてなくて、律花を束縛したいだけの彼氏だよ。
だけど。
『今日、俺のとこに泊めます』
────だからこそ・・・ここには絶対、泊めさせない。
夕方には弥生さんが帰宅し、律花を俺の家に泊めると伝えた。悠くんは何も言わなかったし、弥生さんはなぜか嬉しそうにニヤニヤして「いってらっしゃい」と俺と律花を送り出した。
で、頭に血がのぼっていたのがだんだん冷静さを取り戻してきて─────今に至る。
家は相変わらず、両親が不在。
ようするに、律花と俺の二人きりだ。
(ヤバい・・・・この状況はヤバイ。)
意識し過ぎな俺と、家に来てから一言も話してくれない律花。
そもそも、俺が“俺のとこに泊めます”って発言したときも、律花はただうつ向いてただけで何も言わなかった。何も言わずに───ついてきたのだ。
(また、自分の気持ちを押し付けた・・・・?)
不安になって、ソファーの隣に腰掛けながら顔色を窺うように問い掛ける。
「律花ちゃん、怒ってる・・・・?」
「お、怒ってない」
肩が少し触れただけで律花がピクッと跳ねた。
「・・・・緊張してる?」
「だって頼があんなこと言うから───・・・」
「・・・・っ!!」
くそっ!可愛すぎか!!
押し倒してキスしたい、猛烈に。
だけど、それは──────やってしまったら終わりだ。
(抑えろ、抑えなきゃ終わりだ・・・・)
「大丈夫。会ってなかった分、律花と話がしたかっただけだから。────それ以外何も、しないし。」
半分は自分に暗示をかけるかのように、強調しながら言った。まぁ、半分は本当に話がしたかったんだけど。
俺の必死さがおかしかったのか、フッと律花が笑った。
「ってか、あの悠くんの友達ともう同じ空間に居させたくかったってのがでかい。」
ボソボソと本音をこぼすと、ようやくこっちを向いた律花が首をかしげる。
「え、知哉さん?」
「ほら。・・・・名前で呼び合ってるし」
つい、口を尖らせてそうひがみたっぷりな声を出してしまった。
“知哉さん”、“律花ちゃん”って、お互い仲良さそうに呼び合ってるだけで、スゲー嫌なんだけど。これ以上接触して欲しくないって思うのは、やっぱり俺がガキなんだろうか・・・。
俺は自分のキャパの狭さに自己嫌悪になりつつあるのに、俺の隣にいる彼女はなぜか少し照れたように口元を手で隠すとチラッとこちらに視線を向け、言った。
「それ────やきもち、ですか?」
「デスネ。」
同じ口調でそう返すと、さらに照れてる。
────なんなんだよ、くそ。
そんな表情されたら、これ以上何も言えないじゃんか。
(こんなことなら、やっぱり・・・・)
「俺も一緒に行けたら、良かったのに」
「部活だったんだし、仕方ないじゃん」
わざとらしく拗ねて見せれば律花が楽しそうにクスクス笑う。
「知哉さんは確かに変わってるし、チャラいけど。────悪い人じゃないよ、きっと」
そう言って笑う律花が、─────律花の笑顔が好きだ。
「だって、お兄ちゃんの友達だもん」
いつも、その笑顔を見ていたいって思ってるのに。
律花のこと、信じてない訳じゃないのに。
好きだから────
「・・・なぁ、」
───壊すのは、いつも俺なんだ。
「あの人のこと、気になるの?」




