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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【6】恋人
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107

「あの・・・・」


里桜のおばあちゃんに挨拶して、里桜と一旦別れた帰りの電車内────私はずっと気になっていたことを口にした。


「ん?」

「────なんで知哉さんがここに?」

ニコニコと笑顔を向けてくる知哉さんに、私は素朴な疑問を投げ掛ける。


「あれ、言ってなかった?悠が研究室にノーパソ置いてったから届けてあげようかなと思って」

「あ、そうだったんですか」


それなら私が届けますよと言おうと思ったけど、

旅行鞄が思ったより重くてノートパソコンはさすがに持って帰れない。

「・・・なんか、すいません兄が」


駅に着いてから家に連絡したけど誰も出ないし、兄の連絡先を知らない私はとりあえず知哉さんと自宅に向かうことにした。


「いえいえ」

軽い調子で、知哉さんが笑う。

「悠の地元、初めてだから楽しみだよ」


「楽しいものなんて、ないですよ?」

「そう?こうして律花ちゃんと歩いてるだけでも充分楽しいけど?」

「・・・・へぇ」


(知哉さんて、本当にチャラいな・・・・)


「うわ、なにその目は」

「いえ、べつに。」

表情(かお)に出ているのが分かって、私は目をそらした。


「チャラいって思ったんだろ?本当のこと言っただけなのになぁ」

「それはどうも」

「律花ちゃん、(つめ)てー」


「あ!そういえばさ、」

しばらくして知哉さんが何かを言いかけ、そちらに視線を向けようとしたその途中で、背後から声がした。


「律花っ」

その声に、ドキンと心臓が軽く跳ね上がる。振り返ると、やはり頼だった。

高校バスケ部のジャージにスポーツバッグを肩に乗せた頼が、少し息を切らせて立っていた。


「────頼、部活がえり?」

「その人は?」

私と頼────お互いの質問が同時に交差した。そして、振り返った知哉さんが頼を見て笑顔を作る。


「ああ、律花ちゃんの彼氏?」

「かっ、(彼氏)っ!?」

「そうですけど?」

いまだに頼を“彼氏”と呼ばれるのは慣れなくて恥ずかしい。赤面してつい答えそびれた私の代わりに、頼が即答した。しかも、私の手を引いて自分の方へ寄せながら。


(ちょ、手!手!)

心拍数が上がって一人テンパる私をよそに、頼はじっと知哉さんを見つめていた。頼の横顔から不機嫌なのが分かって手を離すことも出来ない。


「あはは。めっちゃ警戒されてる!俺は悠の友人だよ、悠に会いに来ただけ」

ほら、忘れ物を届けにね。とノートパソコンの入った鞄を少し持ち上げて見せる。


「それにしても律花ちゃんの彼氏って、イケメンだけど束縛しそう。大丈夫?」

「・・・・しません。ていうか、知哉さんには関係ないでしょ?」

「まぁねぇ。でもなんていうか、見た目ばっかで中身はガキくさそうだなぁって」


(なんでそんなこと言うの?)


「なっ、」

頼がなにかを言いかけて前に出ようとしたその瞬間、私は思わず庇うように頼の前に立った。


「頼の悪口、言わないでください。」

「やだなぁ、からかっただけだよ。」


さっきから言葉に棘を感じるし、笑顔だけど悪意を感じる。

頼は、今の感じだと知哉さんのことが苦手だと思う。

出来ればもう、会って欲しくない。


「知哉さん、お兄ちゃんのパソコン私が預かるのでここで大丈夫です」

知哉さんがこれ以上この場にいると、険悪度が増すだけだから。

私はそう言って、ここでさよならしようとした。

すると、知哉さんが楽しそうに笑顔で言った。


「あ、そうそう!律花ちゃん。今日泊めてね」

「え?」

「だって宿ないもん、俺」



(ええーっ??)


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