表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【5】兄妹
109/140

104

『律花、里桜ちゃん借りるわ』

涙がまだ頬を伝うままの里桜を連れて、兄は暗闇に消えた。


かと思えば暫くして二人は戻ってきた。

すでに泣き止んでいた里桜を、私と金澤さんのところまで送り届けて一言、兄は「俺、帰るから」と一人去っていった。


明日の始発の電車で実家に帰るからだとか、理由をつけて。


(里桜・・・・・)


私は、隣にいる里桜の横顔をそっと盗み見る。


泣き腫らした目は、うさぎみたいに真っ赤で。

なのに、何もなかったように里桜は明るく花火を楽しんでた。



『────律花?』

「あ、うん聴こえてる」

『なんだよ、上の空だな』


耳元から聴こえてくる、頼の声が少し不機嫌になる。


「ごめん。───ちょっといろいろあって」


私の声は今すごく沈んでると、自分でも分かるぐらいに。

それぐらい今は、悲しくて胸がいっぱいだった。


────里桜の気持ちを考えたら。



頼との電話も、今はすべきじゃないと思った。

「ほら、彼氏から電話でしょ?出なよー」なんて、里桜は明るく言ってくれたけど。

正直、今は里桜のことで───ううん、里桜とお兄ちゃんのことで頭がいっぱいになってる。


里桜はお兄ちゃんに告白してフラれたんだって────聞かなくても分かってしまったから。



『律花、明後日には帰ってくるんだよな?』

「───あ、うん」

『明後日、部活が午前で終わりなんだ。映画とか行かね?』

「えっ」

思いがけない頼からの誘いに、私の声が裏返ってしまう。


『なんだよ、不満?』

「行く!」

つい声が弾んでしまった私を電話口の頼がクスッと笑った。

『良かった・・・・じゃあまた明日連絡する』

「うん、おやすみ」

『おやすみ』


何があったのか、頼は無理に聞き出そうとしてこなかった。

頼が、そんな私のことを理解してくれてるのが嬉しくて。

その気遣いに、頼の声に、少しだけ胸が温かくなった。


(ありがと、頼)




「電話、終わったぁ?」


気を使って席を外していた里桜が、ひょこっと顔を出した。

「あ、うん・・・ごめん」

何となく目を合わせられずにいた私に、里桜は明るく振る舞う。


「良いよねぇ、ラブラブな二人は。」

「そ、そんなこと・・・・っ」


私がずっと気にしているからか、里桜が肩を竦める。そして小さく息を吐いた。



「────フラれちゃった」

「里桜・・・・」

アハハと空笑いするに、私はかける言葉が見つからなくて黙ってしまう。


「あ!大丈夫だよ、こうなることは分かってたから。だいたい告白だってするつもりもなかったし!」

「・・・・・・」

「やだなぁ。そんな、悲しそうな顔しないでよ律花ちゃん。」

「だって」

「ちょっとぉ、なんで律花が泣くの?」

「・・・・ごめ」


なんで涙が出てきたのか分からないけど。

でも、里桜が悲しい思いをしたのは分かるから。

里桜のことを考えたら────胸の中が悲しみで満タンになった。


「泣かないで、律花。」

「・・・・・・ごめん」

「謝らないでよぉ、律花も悠さんもなにも悪いことしてないじゃん。謝られるのはおかしいから、」


優しくそう言う里桜は、私よりずっと強い。

私が涙を拭って顔を上げると、里桜は涙目で笑った。


「ありがとう律花。でもね、私悠さんのこと諦めてないから」


そう言った里桜は、今までで一番綺麗だと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ