103(前)、@里桜視点
「打ち上げ花火も、やっちゃう?」
「あ、いいですね」
金澤さんの提案にのった律花が私と悠さんを置いて、離れていく。
その背中を───悠さんがどんな表情で見てるかなんて、律花は気付いてない。
「悠さん、線香花火しませんか?」
「うん、いいよ」
私が少し強引に誘うと、悠さんは私に顔を向けると微笑んでくれた。
(────私にはいつも、優しい悠さん。)
嬉しいのに、切ないよ・・・・。
二人並んでしゃがみこみ、線香花火に火を着けた。
手元の線香花火を見つめる私と、律花を見つめる悠さん。
─────悠さんは心のうちを見せてくれない。
私は部外者で、他人な上に、友達でもないんだから当たり前なんだけど。だからこそ、切ないの。
「気になります?」
あぁ、私ってどうしてこんな意地が悪いんだろう。
だけど寂しさからか嫉妬からか、この心の汚ない部分が溢れ出て止められない。
「───律花ちゃんと金澤さん、仲良さげですよね。珍しいんですよ?律花が男の人と仲良く話すなんて。」
「そう、なんだ・・・・?」
私の言葉に悠さんは少し、眉間に皺を寄せる。
悲しませたい訳じゃないのに、口がどうしようもなく喋りを止めない。
「────律花は中学の時とか男子が苦手で。いつも眉間に皺寄せてて男子が話し掛けれないぐらいだったんです。───なんていうか、完全に壁作ってました」
「へぇ・・・・」
「それが最近は、そうでもなくて。───赤下と付き合い出したからなのかな、表情も柔らかくなって。」
「そう・・・・」
こんなこと話したって、意味ないのに。
なんで悠さんにこんな話聞かせてるんだろう、私。
まるで道化師みたいで滑稽だわ、本当。
自嘲して、口元に歪んだ笑みが浮かんでしまう。
「やっぱり悠さん、気になります?」
「うーん。気にならないと言ったら、嘘になるかな。」
私が意地悪い聞き方をすると、悠さんは少しおどけてそう言った。
それは、“妹”として?それとも────・・・。
聞きたくても聞けないその先の言葉は、線香花火の火球と一緒に落ちて、消えた。
「それにしても里桜ちゃん、すごく綺麗になったね」
「え・・・・」
ドキリとして顔を上げると、悠さんが笑って言った。
「里桜ちゃんこそ、男が放っておかないんじゃない?彼氏とか作らないの?」
ちょっと待って、え、ちょっと待って。
心拍数が急に上がって、動揺して。
期待してはダメなのに、勝手にドキドキが増してしまう。
「つ、作るものじゃないですよね彼氏って」
やっと放った言葉は、本当にまぬけな珍回答だった。
・・・・自己嫌悪にも陥りかけるほどの。
「へぇ、意外と純情なんだ?」
クスッと大人っぽく笑う悠さんに胸の鼓動が跳ねた。
「え、どういう意味ですか?」
「ごめんごめん。里桜ちゃんて大人っぽいからもっとすれてんのかと思った」
「・・・・・え」
急激に冷えきった心に、悲しみがグッと詰まって────気が付いたらホロリと目から、雫が落ちた。
「えっ、里桜ちゃん?ごめん、冗談のつもりだったんだけどっ」
泣き出した私にひどく困惑した悠さんが、慌てて顔を覗き込む。
ヒドイ。
そんなの、冗談にもならないよ。
抑え込んでたものが、一気に放出されたみたいに。
止めたくても涙が止まんない。
「ほんと、ごめんな。里桜ちゃん、失礼なこと言って」
頭を撫でる悠さんの大きくて温かい手に、私はそっと自分の手を重ねた。
「・・・・きです」
私の気持ちなんて、押し付けたら迷惑だから。
だからずっと押し込めて、このままずっと自然に消えるまで呑み込んだままにしておくつもりだったのに。
────悠さんが、悪い。
「え?」
「好きです、悠さん・・・・」
私はずっと貴方が好きで。
ただ、それだけだったのに。