102、花火
着替えを済ませて、ドライヤーを使っている里桜を待っている間、私はスマホの電源をいれた。
『負けた』
プールに入る前に頼に送ったlineの返事が、一時間前ぐらいに届いていた。
(試合、負けちゃったのか・・・・)
スマホの画面を片手に、思わず溜め息が漏れる。
(頼・・・・)
頼はいま、どんな気持ちでいるんだろう。
近くで一緒にそれを感じられなかった自分に罪悪感を感じる。
「律花ちゃん、お待たせー」
支度を終えた里桜の声に、私は我に返る。
「ごめん、今行く」
なんて返信しようか咄嗟に言葉が浮かばなくて、私は慌ててスマホをバッグに仕舞った。
「準備できたよ」
プールから帰ってきてすぐに温泉に向かい、のんびり浸かったあと部屋で用意されていた浴衣に着替えているとノックのあとに金澤さんのそんな弾む声がした。
(・・・準備?)
「私が、誘ったの」
里桜が少し目を伏せ遠慮がちにそう言った。
外に出ると辺りは暗くなってきて、頬に当たる風は心地よい。
「金澤さんと、悠さん。ほら火の元私たちだけじゃ危ないかなって」
「うん、そうだね」
里桜の必死な表情を見たら、まるで言い訳みたいに聴こえてきてしまう。
(そんな私は別に、何も責めていないのに────。)
苦笑しながら、私は里桜の隣を歩いて別荘から少し離れた大きな空地に向かった。
「打ち上げ花火も、やっちゃう?」
「あ、いいですね」
二人きりにさせてあげよう。
里桜とお兄ちゃんを。
金澤さんの提案にのったフリをして、私は金澤さんのお手伝いをすることにした。
「律花ちゃんは、いいの?」
「え、何がですか?」
「あー・・・・ほら、例えば悠に彼女とか出来ても」
彼女?
そんなの、今更じゃないか?
兄は23だし、今までにだって彼女ぐらいいたはず。
「お兄ちゃんが幸せなら、私は全然オッケーですよ?」
「そっか」
「変なこと聞きますね、金澤さんて」
「そう?」
「じゃあ────それが、友達でも?」
「・・・・はい。」
この胸のモヤの正体はまだ分からないけど、私は里桜を応援したくない訳じゃない。
だって里桜は、私の時に背中を押してくれたから。
頼と拗れたままなのをずっと気にかけてくれて、なんとか直そうとしてくれたのは里桜だったから。
ただ、里桜の気持ちはまだ聞けていないから─────これが恋なのかは確信できてないけど。
そう思ったらまた、胸の中がモヤモヤしてきた。
(ああ、そっか────。)
うっすらだけどこのモヤの正体が分かってきて、私はお兄ちゃんに話し掛ける里桜の横顔を見つめた。