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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【5】兄妹
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ウォータースライダーは、すごく楽しかった。

結構並んだけど、あの爽快感はやみつきになった。

ただ、専用の浮き輪には里桜とお兄ちゃんと私、というおかしな三人組だったけど。────そして流れるおかしな空気。


(気まずい・・・・)


お兄ちゃんは、私をからかう金澤さんに怒ってからずっと不機嫌で。なぜか私とは目も合わさないし。

里桜は里桜で、お兄ちゃんがいるからかいつもみたいにはしゃがないし。


(─────なんで、こうなった?)



「ちょっと休憩しよっか」

まるで保護者のような金澤さんが、プールサイドからそう声をかけてくれていくらかホッとした。


「なんか飲み物とか買ってくるよ」

空いている休憩場所のベンチに座ることになり、向かおうとすると金澤さんがにこやかに言った。


「あ、飲み物持ちきれませんよね?私も一緒に行きます」

「え、いいの?」

里桜が金澤さんにそう言って、二人が行ってしまいそうになる。


(え、でも────里桜はお兄ちゃんと居たいんじゃないの?)


「り、里桜はここで待ってて?私が行ってくる」

「え、いいから。律花はここで悠さんと待っててよ」

「・・・・でも、」

「いいからいいから。」

半ば強引にそう押しきられて、私は兄と二人パラソルテーブルがあるところに座った。



「お兄ちゃん、」

「んー?」

「ねぇ。なんか怒ってる?」

探るようにそっと兄の顔を窺い見る。


「・・・・怒ってないよ?」

頬杖をついてそっぽを向いたままの兄がボソリと言った。


声が、怒ってるじゃん。

こっち、向いてくれないじゃん。


「律花は─────いつから」

「え?なに?」

「や、なんでもない。」


兄の声は小さくて、聞き取れなくて。

聞き返したら、はぐらかされた。

言いたいことがあるなら、言えばいいのに。


この重たい空気をなんとか打破しようと、私は元気に振る舞うことにした。


「お兄ちゃんとプール来るなんて、何年ぶり?今年一番の驚きだよ」

「あー、俺も。」

「お兄ちゃん、スライダーとか出来たんだね?昔はやらなかったよね?」

「やらなかったんじゃなくて、やれなかったんだよ。お前がまだ小さくて怖がるから」


(あ、やっとこっち向いた。)

口を尖らせる兄に、なんだか機嫌も直ってきた気がして嬉しくなる。


(本当は、お兄ちゃんとたくさんしゃべりたかったのかも────昔みたいに。)


「あー、そうだったんだ。てっきり怖がりなのかと。じゃあジェットコースターも乗れるんだ?」

「・・・・乗れるよ」

「なに、今の間は。無理しなくていいよ」

無理してる兄がかわいくて、クスクス笑ってしまう。


「・・・・無理してねーし」

「じゃあ今度一緒に行こうよ!ぜひ見たいなぁお兄ちゃんが乗ってるとこ」

「アホか」

「ちょっと、頭ぐちゃってなった!!」


兄が私の髪をワシャワシャして、髪が乱れた。せっかくシュシュで結んでたのに。


「─────元気そうで、良かった。」


ブーブー文句を言ってる私の上から、そんな小さな声が降ってきた。顔を上げると、兄が優しく目を細めて私に微笑んでた。


(────なんで、そんなこと言うの?)



「ねぇお兄ちゃん、」

「なに?」

「なんでずっと帰ってこなかったの?」

「────色々、忙しくて」


(────“色々”って、なに?)

だけど兄のその答え方は、これ以上聞くなと言っている気がして聞けなかった。


「なに、寂しかったのかぁ?」

ふざけてそう聞く兄に、腹が立った。

なに、言ってんの?


「・・・・当たり前でしょ?」

「え?」

「寂しかったよ?だってもう何年も会ってなかったんだよ?連絡もないし。私たち兄妹なのに。お母さんだって、言わないけどお父さんだって、きっと寂しがってる。」

「・・・・・」

「でも来年就職だよね?地元に戻ってくるんだよね?」

「いや、─────こっちで就職考えてる」


「え────なんっ」

「ただいまぁ」

「はい、律花。かき氷売ってたよ」

驚いて身を乗り出した私の声に金澤さんと里桜の声が重なった。


「あ・・・・ありがとう」

言いたかった言葉を呑み込んで、里桜からかき氷を受け取る。


「律花、どうかした?」

「え、う、ううん、なんでもない」


私の顔に何かついてる?と里桜が聞いてくるから、私は慌ててそう答えた。


(里桜・・・・・)


里桜は────このこと知ってる?

いや、知ってるわけないよね。

私だって今聞いたばっかりだし。


(っていうか里桜、─────本当にお兄ちゃんのことを?)


乙女な里桜の表情を横目で見ながら、いまだに半信半疑でいた。


だって里桜だよ?

こんだけの美少女だよ?

あんだけモテてて、誰とも付き合わなかった理由がそれ(⚫ ⚫)って。


だいたい里桜とお兄ちゃんの接点だって、小学生の時家で何度か会ったぐらいしか記憶にない。


いったいいつから里桜はお兄ちゃんのことを好きだったのか。

そのきっかけも、理由も、分からない。


(あとで聞いてみてもいいだろうか?)


────“里桜ってお兄ちゃんのこと、好きなの?”って。

だけど仮に“そうだよ”って言われたら・・・・あれ、なんか。


(なんか、モヤモヤする────・・・)


得体の知れないモヤモヤが心の中に生まれて、私は戸惑う。


「律花、溶けちゃうよー?」

「あ、うん・・・・」


里桜の可愛い笑顔を見たら、余計に哀しくなった。


(この気持ちは、なに?)

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