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どんどん先を行ってしまう二人のあとを慌ててついてく私に、隣を歩く金澤さんがポツリと言った。
「里桜ちゃんって、悠のこと好きなんだ?」
その言葉になぜかドキッとした。
「・・・・・そう、なんですかね?」
私も、里桜の様子がいつもと違うのには薄々気づいてた。
今だって、兄に手を引かれてすごく幸せそうに頬を紅く染めてうつむき加減についていく里桜は────あれはもう恋してるって表情してる。
でも、まさか!
だって、なんでうちのお兄ちゃん・・・・?!
そんな話、今まで一度も聞いたことなかったのに。
なんだか心にポッカリ穴が開いたような・・・・この気持ちはなんだろう。
「分かりやすいよね、みんな」
クスッと笑う金澤さんが、視線を目の前の二人に戻して言った。
「────あんな積極的な悠、初めて見たし」
「ああ、お兄ちゃんもさすがに里桜の可愛さには敵わなかったってことですよね。男ならみんな、里桜のこと可愛いと思うでしょ?私ですら、毎日可愛すぎて眩しいですもん。」
そう言ったら金澤さんは少し呆れた顔をして笑った。
「なんで笑うんですか?」
「いや、律花ちゃんは鈍感だよなーって」
「え?」
また、鈍感って言われた・・・・。
しかも今度はまだ会ったばかりの人に・・・・。
「や、ごめんなんでもない。気にしないで律花ちゃん」
へこむ私に、苦笑いの金澤さんが顔を近付けてきたと思ったらにっこり微笑んで言った。
「でも俺は、彼女にするなら里桜ちゃんより律花ちゃんの方がいいなぁ」
(・・・・・は?)
「その顔。正直で可愛いよね、律花ちゃんて。」
金澤さんが、私の顔を見て愉しそうに笑う。
「でも、彼氏いるんだっけ?付き合って長いの?」
「なっ、」
(なんでそんなこと突っ込んでくるのこの人。)
「彼氏は一緒に来なかったんだ?よく許したね、彼氏」
(彼氏彼氏言わないで─────・・・・)
頼のことを思い出しただけで、勝手に顔が熱くなる。
頼の顔が浮かんで。
頼に─────会いたくなる。
「赤くなるところを見ると、最近付き合ったって感じ?」
「べ、別に良いじゃないですか私のことなんて」
赤くなってしまった気がして頬を手で覆うと、金澤さんはますます愉しそうに顔を近付けてくる。
「えーなんで?」
その話題、もう止めて。
恥ずかしくてこの場から消えたくなる。
頼のこと考えちゃうと、心臓がぎゅって苦しい。
「おい、知哉」
ドスの効いた低い声がして顔を上げると、いつの間にか私たちのところまで引き返してきたらしい兄が金澤さんを睨み付けていた。
「律花で遊ぶの、ヤメロ」