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「───里桜、なんか体調悪い?」
「ううん、大丈夫だよ」
そう言って笑顔を見せる里桜はいつもより元気がないように感じた。
「リオ・・・・・って、あの“里桜ちゃん”?」
横から兄が驚いたように口を挟む。
「あの、ってなによ」
「ほら、小学生の頃から仲良かった。よく家にも遊びに来てただろ?あの頃も可愛かったけど、高校生になったらより綺麗になったね」
そう言うと珍しく里桜は赤くなって照れた。なにそれ、里桜可愛すぎる。
「あ、ありがとうございます・・・」
顔を少し俯かせて目を伏せると、長い睫毛が影を落とす。里桜は、こんな乙女なキャラだったか?
「それに比べてお前は、久しぶりに会ったのに相変わらずだな。里桜ちゃん見習って少し女らしくしろよ」
お兄ちゃんがからかうような表情で笑う。
「失礼な!私だって少しは成長したんだから」
「そうですよ。律花ちゃん、彼氏いるんですから!」
私の言葉に続けて、里桜がそんな要らん情報を加えた。
「里桜っ」
恥ずかしさで消えたいと思っている私の隣で、真顔になったお兄ちゃんがボソリと言った。
「もしかして、赤下頼?」
「なんで・・・・・」
なんで分かるの?
え、お兄ちゃんエスパーなの?
驚きのあまり絶句してしまった私を見て、兄は悲しそうに笑った。
「やっぱりアイツか。」
(・・・・お兄ちゃん?)
「へぇ、律花ちゃん彼氏いたんだね。」
「残念でした?でも駄目ですよぉ、二人はラブラブなので」
運転席から金澤さんの声がして、里桜が金澤さんにすかさず答える。
「へぇー?律花ちゃん彼氏の前だと可愛くなっちゃうタイプ?」
「違っ!ラブラブなんかじゃ・・・っ!里桜勝手なことばっかり言わないで!」
「えぇ?でもお互いずっと両想いだし」
「ちょっともう、その話題止めよ!」
真っ赤になってギャアギャア騒いでる私の隣で、顔を背けるように窓の外を眺めている兄。
(妹の恋バナなんて恥ずかしいよね、私だってすごく恥ずかしいし。)
「それで、里桜ちゃんは彼氏いないの?」
「金澤さんこそ、いないんですかぁ?」
「俺?いないいない。いたらここに居ないからね」
「それもそうですよねぇ」
「悠もずっと彼女いないよなぁ、何故か」
金澤さんの言葉に、私は思わず窓の外を眺めてる兄の横顔をガン見してしまった。
「え、お兄ちゃん彼女いないの?」
てっきり、居るものだと思ってた。
だってもう、23才だよね?
彼女の一人や二人いてもおかしくないよね・・・・。
「・・・・うるさいよ」
「悠、大学でかなりモテるのに全然付き合わないんだよ。」
「知哉、これ以上ペラペラ喋るな」
厳しい口調の兄の一言で、この話はお仕舞いになった。
(お兄ちゃん、なんか・・・・機嫌悪くなってない?)