10、休日
『大きくなったら、頼とは一緒にいられなくなるんだって』
砂場でおままごとをしながら、まだ幼い頃の私が言った。
『え、なんで?』
『分かんないけど、学校離れちゃうんだってお母さんが言ってた』
私の言葉に、頼は暫く手にしていたスコップを動かすことなく、何かを考え込んでいた。そして、ふと顔を上げると目を輝かせて、“いいこと考えた!”と言った。
『じゃあ僕、律花ちゃんと結婚する』
『え?』
『そしたらずっと一緒にいられるでしょ?』
“結婚”したら、ずっと一緒にいられる。
そう教えてくれたのは、お互いの母親だった。
(そっか。それがいい。)
『―――だめ?』
不安そうに上目遣いで見つめてくる頼に、私は笑顔で答えた。
『いいよ、結婚しよ』
そこで“誓いのキス”をした。
それが、私のファーストキス。
だけど、目を開けると目の前にいたのは幼い頼ではなく、高校生になった頼だった。
『だったら、嫌がらせする。』
(え?)
至近距離でそう言った頼が、私に意地悪な笑顔を向けたところで目が覚めた。
(なんて夢…―――)
寝起きの悪い私は、ボーッとしながら重い頭を起こし、片手で支える。
―――ずいぶん昔に、同じ会話をした気がする。
だけど、それが夢の中だったのか、過去の記憶だったのかまでは思い出せない。
―――確かなのは、夢の中の頼が途中までは私の好きだった幼馴染みの“頼”だったこと。
(とりあえず、今日が土曜日で良かった…)
―――休みなら、頼と関わることもない。
高校に入って頼と再会してから、私の頭の中は寝ても覚めても頼のことばかりだ。せめてこの土日ぐらいは、のんびりリフレッシュでもして、頼のことなんか考えないようにしてやる!
ようやく目が覚めて、そう思いながらベッドから足を下ろす。
だけどその瞬間ふと脳裏をよぎったのは、昨日の…頼の表情。
『赤下くん。離して。』
――――わざと他人行儀に苗字で呼んだ私に、頼は傷付いた表情をした。
思い出すだけで、胸がぎゅっとなる。
(“あの時”と―――同じ…だった。)
『好きでもなんでもない。』
みんなの前で、頼が私に言い放った時。
あの時も、頼は傷付いた表情をしていた。
『“あの日”、なんで俺があんなこと言ったのか…とか、律花は一度も聞かなかった。』
頼は昨日、私にそう言った。まるで聞いて欲しかったという表情で。
(聞くわけないじゃん…)
心の中で悪態をつく。
『好きでもなんでもない。ただ、親同士仲が良いから一緒にいるだけで。』
――――そう言って、私たちの関係を終わらせたのは、他でもない頼だ。
頼はずっとそう思っていたんだと。
私はあの瞬間まで、それに気づかなかった。
独り善がりだったことに気付いたときの自分の愚かさは、二度と思い出したくない私の黒歴史だ。
(“なんであんなこと言ったのか”なんて聞いたところで、傷付くだけなんだから。聞きたくないに決まってんじゃん。)