1、再会
「おはよう、律花」
玄関を開けた瞬間、待ち構えていたように奴がこちらに満面の笑みを向けてきた。
『おはよう、律花ちゃん』
目の前の男子高生が、ランドセルを背負っていた頃の───かつての幼馴染みの姿と一瞬重なって、ドキンと心臓が跳ねた。
(違う!騙されるな、私っ)
赤茶色のサラサラの髪も、くりっとした目元も、
口角の上がった形のいい唇も、同じだけど…違う。
「なんで?」
本当に想定外で思わず、そんな疑問が口からこぼれていた。
(なんで朝から、いま一番逢いたくない人間が私の家の前に?)
なんだろう、軽い目眩がする。
「“なんで”?」
頼が、そう聞き返して笑った。
(こんな風に、笑う奴じゃなかったのに・・・。)
私の知っているのは───優しくておとなしかった、私の幼馴染みだった男の子。
つい無意識に過去の彼と比べてしまう自分を呪いたくなる。
(もう関係ない。関係ない関係ない!)
赤下頼という、私の幼馴染みはもう…―――私とは、なんの関係もないのだ。
「だって昨日から同じクラスだろ?俺達」
私が必死にそう自分に言い聞かせているのを知ってか知らずか、悪びれもなくそんな現実を口にするこの男に腹立たしさを感じる。しかも同じ高校の制服の、ズボンの両ポケットに手を入れて、何様のつもりなのか斜めに構えてこちらを見つめている。そしてそれが妙に様になっているのがたまらなく悔しい。
「・・・だから何?私は里桜と待ち合わせして…「笹野ならもう先に行ったけど?」
私の言葉を遠慮なく遮りながら、頼は学校にいく方向を指差す。
「・・・・」
(里桜のやつ、裏切ったのか。)
心のなかで舌打ちをする私に、頼が言った。
「律花、早く行かないと遅刻するぞ?」
そう言って微笑みかけてくる頼の横を、私はすり抜けて走り出した。
「おい、律花っ?」
後ろから、頼の声が追いかけてくる。
(・・・なんなの、もう…っ)
だって…急すぎる。
頭が追い付かない。
(もう、二度と会いたくなかったのに…)