いざ、出陣
大会前日の昨日、俺たちコユーア一行は王都にあるコユーア家所有の屋敷に到着した。
試合に備えて体を休めようとまったりと茶を飲み、庭から外を眺めていると父上から用事があると部屋に呼ばれた。
我がコユーア家を除く4大領主の内のあと3つの貴族との顔合わせがあるという。
マエル家長女、シルダ。
ダルク家長男、ディラファン。
リミール家三女、エリー。
とりあえず敵を作らぬように嫌われないように注意をしながら挨拶をし、いつものように笑顔を振りまいて3人を観察しておいた。
3人は最初ポカーンとした顔で俺を見ていたが顔を赤らめながらも話しかけてきた。
勝ち気な性格のシルダは
「アタシの方が5つ年上ね!あんたヒョロいからアタシが守ってあげる、エリーみたいにお姉ちゃんって呼んでもいいわよ!
それにしても黄金の瞳なんて初めて見たわ!綺麗ね!」
と元気よく言って、同い年のエリーは
「あの…一緒に頑張ろうね。とても綺麗だから女神さまかと思ってビックリしちゃった!ヨロシクね。」
と恥ずかしそうに握手を求めてきた。
ディラファンは、俺より3つ年上でコロナと同い年
「お、お前が噂のコンジキ姫か。ふん。明日は泣きべそをかかないようにするんだな」
と憎まれ口を叩いていたが、後ろにいたコロナが剣を抜こうとしているのを見て、舌打ちをしながら慌ててそっぽを向いた。
彼らが屋敷から帰る時に
「ああ、言い忘れていたが、ワタシは男ですよ。
では、また明日。」
と言い今日一番の微笑みを見せておいた。
3人はまるでビー玉のように目を丸くして顔を見合わせたりと狼狽えていた。
エリーはその後気絶したようだ。
そして、いよいよ大会当日。
大会会場はソアラ国の王都にある。
大会には、ソアラ国中の貴族連中が見学にくる。
将来有望な子供に目をつけて雇ったり、単に自分の子供の試合を応援しにきたり。
なので父上は、何日も会場に泊まり込みで準備に追われていた。
そして、観客の3分の1が庶民や商人だ。
この大会は身分の貴賎を問わないため、身分の低いものは出世のチャンスでもあるのだ。
戦国の世でもそういった事は多いにあった。
俺が開いた相撲大会でも、優勝者には名字を与えたり茶器や太刀を与えたり、侍の身分を与えたものだ。
そして出場者の大半が剣術道場の、10歳以下の門下生の代表として出場する。
俺のように指南役を雇い個人で修業して出場するのは少数の貴族の跡取りに多く見られた。
今年の出場者は120人ほどらしい。
大会は3日かけて行われる。
1日目は1人3試合、2日目は準々決勝と準決勝、3日目が決勝と表彰式だ。
父上の開会の挨拶が済み、予定も詰まっている為に早速第一試合が一斉に始まった。
俺の相手はおそらく9歳ぐらいの少年で歳の割に筋肉のついた体つきだ。
俺は目立つと面倒なので頭にタオルを目深に被り髪と目をできるだけ隠して出場している。
「始めっ!!」
審判の声が響き終わると同時に少年は前のめりに倒れ、まるで柔らかい生肉の塊を床に落としたような音が響いた。
あまりにも早い決着に少し注目を浴びたように感じたが、勝ちの判定と共にその場を足早に去ったから大丈夫だろう。
母上とシャイナが待つ貴族用の席に戻ると、
「相手の子はどうしたのかしら?いきなり倒れるなんてビックリしたわぁ、でもキキに怪我が無くてよかったわ」
と母上が無邪気に言うので
「いえ、審判の挨拶の後にコメカミに一打いれて倒しました。
母上が心配なさるので、大会中は1つも怪我をせずに終わらせます。」
「…えっ…ぅえっ?あっ、そうね、怪我はない方がいいと思うわ…」
よし、これで母上も安心なさるだろう。
普段は天然だが、父上曰く、怒ったら怖いらしいのでこう言っておけば大丈夫だ。
「ちょっとシャイナ。キキって結構強いの…?」
「はい。おそらく今は王国騎士団長より数段上の実力かと。」
「……」
母上とシャイナがヒソヒソと話をしている間にコロナも戻ってきていた。
ちなみに母上の声だけ全部聞こえているが、決して指摘しない。
天然は怖いのだ。
「コロナ、相手を見過ぎている。考えすぎず先を制しなさい。お前はまだ強くなるよ。」
「……見ておられたのですか?」
「当たり前だ。初戦の勝利、大義です。」
「ありがとうございます。……必ず今よりもっと強くなってみせます。」
そうやって、俺は残り2試合もなんなく勝ち、コロナも危なげなく勝ち上がった。
シルダとディラファンも勝ち上がったようだがエリーは3試合目で右手を骨折して負けた。
1日目が終わり王都の屋敷に帰ろうとしたら父上に呼び止められ
「明日からは相手に何回か攻撃させてあげてから倒してあげなさい。」
と苦笑いで言われた。
屋敷に帰ると例の3人がすでに門の前で待っていた。
おいおい、まさか遊びに来たんじゃねぇだろうな……。
内心鬱陶しいなぁと思いながら3人を屋敷にあげ、とりあえず茶を振る舞った。
「皆んな疲れたでしょう。コユーア領内で1番美味しい紅茶です。飲んで心と身体を癒して下さい。それで、今日はどうされました?」
シャイナは客の手前、無表情だ。
無表情で両穴から鼻血を流している。
「エリーが無様に骨を折ったんでな、領地に帰る前に貴様に挨拶したいらしくて寄ったのだ。」
こいつはいつか謀反される典型だな。
「あの……どうも…っう、すっ、スミマセンっでした。応援したかったけど、ぅう、痛いし、ゴメンなさい。」
「はははっ!やっぱり女だな!泣きやがった!女の癖に剣術大会に出るからだ!
まぁ喜べよ、利き手が折れたならメシも食い辛くて痩せるかもしれんからな!はっはっは!」
「黙れ」
俺は本気でディラファンを睨みつけ、一言そう言った。
俺の感情の高ぶりを表すかのように金色の魔力が部屋中で渦巻き始め、ディラファンに敵意をはなっている。
机が押し潰され、窓ガラスが叩き割られ、部屋全体の壁が卵のような形にグニャリと歪み、
俺の体を覆う様に金色の炎がうねりをあげる。
おそらく瞳もコンジキに煌っているのだろう。
ディラファンは、顎が外れるくらいに口を開けたまま気を失い、失禁した。
エリーとシルダも失禁してしまい、ガタガタ震えていたのでとりあえず着替えをさせて、部屋を変えた。
コロナに、そこに倒れているゴミを表に捨ててこいと命じると、
嬉しそうに返事をしてシャイナと担いで捨ててすぐさま戻ってきていつも通り俺の後ろに控えた。
2人が着替え終わったので部屋にはいると俺の顔をみるなり、随分怯えているようで1度も顔をあげずに力強く目を瞑っている。
俺は無言でエリーに近づいて折れた腕にそっと手をあてると、
彼女は酷く怯えて体をビクッと震わせた。
その仕草がとても罪悪感をよんで心臓が少しの間、重みを増した様な気がして、何ともやり切れない気持ちになり思わずフッと鼻で苦笑いした。
その後誰も何も喋らない中、彼女に無詠唱で高度治癒魔法をかけて部屋を出た。
部屋をでる時シャイナに、今日は誰も俺に話しかけないように厳命して夕食もとらず自室に籠もった。
そうして、大会1日目は意外な形で幕をとじた




