麗しのキキ
ー シャイナ視点ー
私は生まれた時からメイドとしての英才教育を受けてきた。
名門コユーア家のメイドになるには、かなりの狭き門をくぐり抜けねばならない。
魔術、剣術、家事、礼儀、知識。
全てにおいてその辺の、海千山千の貴族のメイドを上回らなければならない。
そんな狭き門を15の時にくぐった。
旦那様であるビージー様も、奥様のジャン様もそれはそれはできたお方で、優しく紳士な方達である。
コユーア家のメイドになり5年が過ぎた頃、お二人のお世継ぎがお生まれになった。
それに伴い私はメイド長となった。
異例の出世である。
更にお世継ぎのキキ様のお世話役も賜わった。
大変名誉な事ではあったが、私は子がいない為そそうがないか不安が残る所である。
この国の仕来りで、2歳までの赤子は母親が育てる。
それは王族も貴族も例外ではない。
コユーア家もその決まりに乗っ取って、ジャン様がつきっきりで育てていた。
その間はほとんど、キキ様はもちろん、ジャン様のお姿も見る事はできない。
かくゆう私も、キキ様が2歳になるまで一度もお顔を拝見していない。
そう。あれは初めてキキ様にお目見えする日の事。
キキ様の性格、行動、好み等はあらかじめジャン様からお教え頂いていたし、子育てに関する知識も勉強済み。
これまでの7年に、コレといった失敗もなかった。
名門コユーア家のメイド長としての誇りもある。
今日から私が力尽き果て、死に至るまでお世話させて頂く覚悟はできている。
やや緊張しながら奥様のおられる部屋の扉にノックをし声を張る。
「奥様、キキ様、シャイナでございます。只今参りました。」
「はい。そうかしこまらずに入ってらっしゃい?」
「はい。失礼致します。」
よし、ここまで失敗はない。
後は頭を上げて丁寧に挨拶をするだけ。
「シャイナ。顔をあげて?キキを抱いてあげて下さい?」
「はい。奥様。」
「お初にお目に掛かります。メイド長を務めさせてい・・た・・」
初めてだった。
何かを見た途端に自然に涙が溢れたのは。
窓から入る心地よい風に、部屋にある薔薇の匂いが絡まりあい、彼の神々しいまでの金髪の髪と長いマツゲを揺らした。
ジャン様の膝の上から私を見つめる大きくて、まるで全てを見透かすような、朝日に照らされた美しく煌る黄金の瞳。
幼いながらに高く、通った鼻筋。
完璧としか言い様がない顔立ち。
そして、10人の内10人が姫と、いや、無条件に命をかけて護るべき姫ぎみだと思うだろう美しきお姿。
「あぁぁー・・ぁあ、うっ・・うぅ。」
気が付けば嗚咽をもらして泣いていた。
何たる失態。
何たる失礼。
ぁあ、私には、私にはこんなお方のお世話をするなど恐れ多い。
恐れ多いいという言葉とは、まさに今、この時に使う言葉なのだと直感した。
辞退しよう。そして、私のような卑しき者はこの屋敷を出て行かねばならない。
そう決意した時に
「しゃーな。わたちにつくちてくだたい。」
薄く、微笑んだキキ様のお声を耳にした。
不思議な事に、自然と片手を胸に当て、片膝をつき、メイドである私が一度もした後のない、騎士が忠誠を誓うポーズをとっていた。
そう動く以外に、誠心誠意を表すすべが見つからなかったと言ってもいい。
「はい!この命尽きるまでキキ様のお側に!」
メイドにあるまじき大声を張り上げてそう答えた。
その返事を聞いたキキ様の微笑みといったらもぅ。
子供とは思えぬ艶めかしさというか、美しさというか、簡単に天使のようだと例える事も憚りたくなる人を超えたものがあった。
そして私はキキ様のお側を片時も離れない事を誓った。
余りの仰々しさにジャン様は少し呆れて
「おとぎ話のようね、ふふふ。」
と苦笑いをしていた。




