輪廻転生
「おめでとうございます!立派なお世継ぎでございますジャン様!ビージー様!」
「おお、そうかぁ男の子かぁ!よくやった!よくやったなジャン!」
「ええ、あなた。私たちの子供なのね・・うぅ・・・。生まれてきてくれてありがとう。」
「それであなた?この子の名前はどうするの?確か女の子だったら…キキだったわよね?男の子だけど……?」
「あぁ。しかし見てみなよこの子の顔。まだ生まれたばかりなのに、こんなにも美しい。まるでお姫様みたいだ。」
「よしっ!決めた!この子はキキだ!美男子になるぞぉ!」
「もぅさっそく親バカねぇ。」
そんな会話が聞こえていた。
日本の言葉ではなかったが何故か理解できた。少し目を開けると南蛮人の男と女が居た。
最初に俺が思った事は
「やかましいのぉ」
だった。
何回か目覚めたり寝たりと記憶は曖昧だった。
そして不思議だった。
まず俺の姿?いや、俺自身がだ。
ふと目の前を見ると南蛮の女が俺を抱いているではないか。
なんだこの巨大な女は!
南蛮の国とは皆こうなのか!?
いや、フロイス達は普通だった。ということは、あぁそうか。
確か俺は、本能寺で死んだんだったな。つまり、ここは地獄でこの女は閻魔の妻か何かだな。
なるほど、俺を今から地面にでも叩きつける気か。
ふんっ。大人しく殺られると思うなよ!
そうやって何とか抜け出そうと体を芋虫みたいにモジっているとどこか記憶にある匂いがした。
淡い花の香りだ。
その匂いがするほうに目をやると机の上の花瓶に橙色の花がさしてあった。
キンモクセイのような懐かしい匂いだ。
そんな匂いにうっとりしていると机の奥にある鏡に気付いた。
そこにはここにいる俺を抱いた巨大な南蛮人の女が映っていた。
そして抱かれているのは俺ではなく赤子であった。
いや、正確には信長という俺の魂の入った南蛮人の赤子だ。
そうだ、俺は生まれ変わったのではなく転生したのだ。
まぁ少しの間、動揺もしたが、俺が転生したと考えれば実に説明がつく現状だ。
現実主義、合理主義として生きてきた俺だ。まぁ意味が解らん所も少なからずあるが、納得するほかに道もないみたいだしの。
しかしまぁよりによって南蛮人とは。
んん?・・・あれ?
あー。不味いな。俺ってコレどう見ても女だろ?
おいっ、女!もうちょい鏡に寄ってくれ!
「だっ!むぅー!まっ!」
ありゃ?あっそうか、まだ生まれたばっかりだから喋る事はできんのか。
「あらあら?キキは鏡が好きなの?ますますお姫様みたいねぇ」
そう言うと女は鏡に近づいてくれた。
なるほど。身振り手振りは通じるか、ならば言葉を喋れる様になるまではそれでいこう。
そういえば俺の事をキキと呼んだなぁ。
字はどう書くのだろうか。
気鬼。綺喜。希媿。??
まぁよい。南蛮人の事だ、どうせ当て字だろう。
しかしどうしたものか、俺は信長だと言っても誰も分からんだろうしな。
暫く様子を見ながらこの幼い体を成長させる事にしよう。
心残りは本能寺で先に逝った蘭丸の事だが・・・
あやつ、あの世で寂しがっとるだろうのぉ。




