一閃
暫しの休憩を取った俺達はカライ隊32人を連れて往路に使ったであろうカライ達の来た道を警戒しながら歩いている。
近くにはまだ魔物の気配は無いみたいだが常に警戒を怠らず先頭を歩く。
辺りには人の死体が散乱しているが魔物の屍はないようだ。そうか、魔物は死ねば鉱石やアイテムに変わるのだったな。
しかし…戦国の戦場とはまた違うの光景だ。
匂いも違うな。
聞けば今回はディラファンによる虐殺だが、魔物の討伐や森林調査などで領主の軍を動員した所謂、戦は大概多くの死傷者が出るという。
だいたい敵兵(魔物)の数も全く把握していないのによく戦いを挑む気になるものだ。
しかも戦場が森や山では戦略や策もほぼ無いに等しいだろうに…。
しかも相手は魔法という飛び道具を使ってくるというのにカライ達の軍でも魔術士の数は極少数でしかも生き残った者は1人もいない。
陣形やフォーメーションは組まれていたのか?
どうもこの世界の者達は洗練性がないというか、大雑把というか…。
魔法という便利過ぎるものがあるせいで人々の向上心や進歩性が薄い気がする。
魔法という摩訶不思議なものがあるくせにそれを付与した道具も無いのだ。
魔攻剣を編み出した時もコロナやシルダ等子供ならわかるが大人で、しかもソアラ国の王国お抱えだったダージーやタンクが絶句するザマだ。
ようするに弛んでいる。
まぁ日本人が生真面目で働きすぎるのかもしれんな。ルイスフロイスも確かその様な事を言っていた気もする。
フロイスといえばアイツから貰った金平糖なるものは美味かったな、屋敷に帰ったら作ってみるか。
とにかくこの森からの脱出だな。
「カライ、ここまでの道のりは山火事にならぬように足元を燃やしつつ魔物を討伐しながら入り口から真っ直ぐに進んだのだな?」
「はっ。ですので進軍速度はかなり遅かったと思います。さっきキキ様と合流した地点まで6日掛かっておりますが平地の進軍なら4日程だと思われます。」
「いや、それでは計算が合わんな。カライの言う平地の進軍速度とは魔物が出た場合足を止めての戦いが加味されてあるだろう?」
「はっ!確かにその通りでございます。ついでに言えばキキ様達の戦力抜きでの推測です。キキ様方の戦力は私にはまだ把握できかねますので…。」
ふむ。
確かにカライの言う通りだな。さっきの魔物を討伐したのはほぼ俺の氷魔法で、コロナ達は後片付けみたいなものだったしな。
一度俺以外の戦力を少し見せて計算させてみるか…。
「ではワタシ以外の者の戦力を見せておく。それでまた計算し直してみろ。それから平地と同じく木等は無いものとして計算してよい。
では…コロナ!ちょっと来てくれ!」
「ははっ!」
「(この子は確かキキ様が凍らせた魔物を切り崩していた少女だな…というより何故この子なんだ?ダージーやタンクの今の実力を見せて貰った方がいいのでは?それに何故わざわざ俺に計算させる?ダルク家の戦力を知りたいのか?それなら聞いてくれればあんな糞みたいな家の事等知りうる限りを伝えるのに…分からん、何が狙いだ。)」
「コロナ、前方右側1200メートル先に狼の魔物が6匹とその少し後ろに木の化け物、トレントといったか。双剣どちらも魔攻剣を使っての討伐を命じる。いけるな?」
「はっ!もちろんでございます!」
「キッ、キキ様お待ちを!!いくらなんでもそれは無理です!大の大人が3人掛かりで1匹の魔狼を討伐するのが普通ですよ?!この少女が実力者なのは分かりますが…うっ!!」
カライが慌てて俺を止めようとした所コロナが殺気を放ちながらカライの首筋に剣を向けた。
恐らく「見くびんなよ?」って事だろうな。
「カライ殿、見くびるな。そしてキキ様の判断を信用しない言動、私の前では許さん。」
おお。
なんとも予想通り。そして相変わらず見事な忠誠心だ…脱出が終われば何か褒美をやろう。
「コロナ、よい。それよりもう来るぞ?」
「はっ!」
「カライ、心配するな。コロナは今のダージーより実力は上だ。そして俺が編み出した魔攻剣を習得しているしな。」
「はっ…。出過ぎた真似をしたようです。では戦力の程を見極めさせて頂きます。(魔攻剣?なんだそれは?それにダージーより実力は上だと…?そんなバカな…買いかぶりだろうキキ様。)」
そう話ながら進軍していると
ザザザザザッ
という音をたてながら体長3メートル程の魔狼が6匹現れた。魔物特有の真っ赤な目でヨダレをグチャグチャと落としながら唸っている。
その体からは薄く黒い魔力が湯気のように出ていていかにも素早そうな低い姿勢でこちらの方を威嚇している。
『ぐおおおおおぉぉっっ!!』
と低く腹に響くような声で魔狼が吠えた。
そして吠えると同時に魔狼と対峙していたコロナが横にズレながら通り過ぎ、勢いを止める事なくまるで踊るようにスルリスルリと魔狼達の隙間を通り過ぎて行く。
魔狼達は首を動かす程度の反応しかできなかったようだ。
うむ、だいぶ様になってきているな。
キキ流を編み出し、弟子としてコロナに教えている俺も鼻が高いというものだ。
コロナはスピード重視に鍛えているから中級の下くらいの魔狼程度のスピードではついてこれんだろう。
そして、少し後ろにいたトレントを高く飛び上がり頭上からから竹割りに斬り裂いた。
トレントが真っ二つに割れて倒れると6匹の魔狼の首もゴトリと落ち、コロナは後ろを振り返らずに帰ってくる。
「ご苦労だったなコロナ。いい太刀筋だったぞ。」
「はっ!お褒めにあずかり恐悦至極です。」
コロナはクールにそう言ってまた警戒しながら元の位置に戻っていったが少し口元が緩み顔が赤くなっていた。
愛い奴め。
「どうだったかカライ?中々だろう?」
正直弟子であるコロナを見くびっていたカライに少しムッとしていたので俺はしたり顔で聞いたが返事は無かった。
「………。」
「…おい、カライ、どうした?」
後ろの兵士達も絶句しているようだ。
「…いえ、あの…え?いや、あれ…?えーと、スミマセン分かりません…。」
「分からない??何が?」
「いえ、色々と分からないのですが…。
まず何故一撃であんなに易々と魔狼の首が断ち切れるのか…。普通はなんども叩く様に斬りつけたり刺したりするものですが…それからあの舞のような動きも…。そして肝心の実力も…桁が違って強いとは分かりましたが。」
「ああ、あんな風に硬い魔物の体を斬り捨てる技というか、斬れるように工夫、強化するというか…まあそれが魔攻剣だ。それからあの動きは俺が編み出した剣術の動きだ。コロナはダージーと同じく剣の弟子だからな。」
「…では、ダージーもあの舞のような動きを…?」
「いや…それは気持ち悪いだろう。
あんな筋肉ダルマが踊るのは見たくないし、奴はスピードタイプではないからな。それで、計算はできたか?」
「はっ。キキ様は言うまでもなく人外な強さとは理解していましたが、他の3名もコロナ殿と同じレベルと考え、木等の障害物がないと仮定するならば…2日程かと。」
「(人外って…)いい線だが、恐らく1日半だな。
カライよ、戦において進軍速度とは極めて重要だ。途中でディラファンが攻めてくるかもしれないだろう?ならば速やかな撤退が要求される。
覚えておくように。」
「はっ!肝に銘じておきます!ですが…あくまで木々がない場合の話、ですので…。」
「木々が邪魔ならば退かせばいい。」
そう言って俺は風魔法で刃を作り超振動、超回転をさせる。
その風刃を無数に発動させ根元から切り倒すように放つ。
とりあえず前方幅5メートルに生えている大木を全て確認出来る距離まで一気に切り倒した。
大轟音で次々に大木が倒れていき土煙りが収まると随分見通しがよくなったな。
次は土魔術であるていど道を平らにしていき完成だ。
「なっ?こうすれば早いだろ?ふふん。」
「「《……………………》」」
コロナは納得といった感じでコクコク頷き、後ろの方でタンクとダージーが慣れた感じで苦笑いしている。
カライ達は撤退を忘れて絶句して、あははは、と乾いた笑いをあげる者や青ざめて立ち眩みを起こす者、両手を組んで俺を拝む者までいた。
コイツら驚きすぎだろう。魔法が使える時点で何をいまさら…。
こうやって進めば最速だし音に警戒して魔物も近づいてこない、いい作戦だと思ったんだがな。
あ、ダルク家の領地の森だからまずかったのかな。
「て、撤退を再開するぞぉ!」
カライが我に帰り再び動きだし、こうして俺達は順調に進んでいった。




