脱出せよ
ーーーーーーーカライ視点ーーーーーー
確実に死んだ。
テラス教に信心深いほうじゃないが、神に祈った事もある。
あの世で神様って奴に会ったら出会いがしらにぶん殴ってやる。
そう思いながら迫り来る魔物のデカイ口に飲まれて死んだはずだったが…。
目を開ければ……なんだこりゃ?
辺り一面凍りついて魔物も森も燃えていたはずの松明も、舞っていた落ち葉さえも氷の彫刻になってやがる。
夢かと思ったが部下達も一瞬の出来事に動揺しだして騒ぎ始めている…。
どうやら現実みたいだが…まさか誰かが魔法で凍らせたのか?
いや、こんな馬鹿げた魔法は聞いた事もねえ、いったい何が起きたんだ。
「大丈夫か?」
そんな声が上の方から聞こえた気がした。
決して大きな声ではなかったが俺達全員に聞こえる澄んだ音だった。
俺達は猫じゃらしを追う猫達の様に全員揃って上を見上げた。
羽根のような、砂金の集りのような物を音もなく舞わせて、金色の翼を広げてスッと降りてきた眩いものは間違いなく天使だろう…。
金髪、黄金の瞳、金色の翼で空を飛び、天女のような艶かしい美しさ…天使以外にありえないその人は凍りついた地面に静かに降り立つとニコリと笑いかけてくれた。
正直俺達は足が震えて動けなかった。
次々に起こる事態に頭と感情が追いつかなかった。
すると後ろから美少女とチャラい男と筋肉ダルマ…いや…ダージーだ!ダージー達が走ってきて、天使の前に跪いた。
「キキ様、お見事でございます!ワシらにご命令を!!」
「うむ。タンクはシールドを張り生き残った兵士を1人残らず保護せよ!
ダージーは怪我人の数、重症と軽傷にわけて集まらせろ、そして状況把握、カライを見つけ話を聞け!コロナは念のため後方の凍った魔物を全て破壊し新手に備えろ!前方はワタシに任せよ!
かかれっ!!」
《《ははぁっ!!!》》
一瞬でダージー達に指示を出した天使様はなるほど、噂のコユーア家嫡男キキ様か…。しかしダージーは分かるが何故キキ様までここに…。
「カライ!おいカライ!無事みたいだな…久しぶりだ。スマンが今は懐かしむのは後にしよう命令があるからな。さぁキキ様の命令を聞いてただろう?ワシに状況を説明してくれ。」
「ちょっ、ちょっと待て…ちょっと待て!俺も命令は聞いてたが、何故コユーア侯爵嫡男のキキ様までいる?しかもたった4人ぽっちで…それにお前もキキ様を手伝ってからにしろよ!あんな小さい子に…危ないだろう!」
「…あん?お前、この魔物達が凍ったの見てなかったのか?」
「はぁ?…何いってやがる?」
すると此方に背を向けているキキ様は右手を軽く持ち上げて掌をひろげている。
なんだ?と思う間もなく掌から10、20と風の刃が浮かび氷漬けになった魔物を破壊して行く。
魔法使いが魔法を使うのに詠唱もしないで魔術をくりだしている。
無詠唱で魔法を使うなんてテラス神とかソアラ国王とか大昔の美化されたおとぎ話じゃなかったのかよ…剣術大会で決勝は何故か欠席したものの圧倒的な強さと美しさ、そして見た事もない剣術だったと噂で聞いていたんだが…。
目の前では信じられない魔法をぶっ放している。
50を超えた辺りで後は任せたぞ!と美少女な剣士に声をかけていた。
「む、むむ無詠唱!!無詠唱魔法だったぞ?!」
「何だ、誰だあの子は!女?!」
「カライ様、この方達は一体…」
「皆落ち着け!ワシはコユーア家嫡男キキ様の家臣ダージーだ!カライ隊長の救援要請に応えてキキ様自ら参陣なさった!重症者と軽傷者に別れてここに集まってくれ!
シールドを張っているのは元王国魔術師団長のタンク、後ろの女剣士はコロナ、そしてこちらのお方こそテラスの再来と言われコンジキ姫と呼ばれるキキ様である!」
「へっ、相変わらずでけぇ声だなダージー!
よし、カライ隊の皆分かったな!色々理解できないだろうが詳しい話は後にしてキキ様の命令に従い重軽傷で別れろ!俺はダージーに現状報告し作戦を聞いてくる。座ってまってろ」
《《りょっ、了解しました!》》
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凍らせた魔物達を破壊し終えて土魔法で50人程が入る簡易的な陣所を作り、全ての人員を中に入れ入り口にタンクとコロナを配備して部隊長のカライから状況を聞いていた。
「なるほど…無謀な領地開発に使われたと思っていたが実はこの地に伝わるバカらしい伝説の生贄にされていて、最悪な事に本当にディラファンが魔人化したと。オマケにお前達は一族皆殺しにされていると。」
「しかし、何て下衆な行為だ…見方を焼き殺し生贄にしてその家族さえも秘密裏に殺戮とは…。カライ達が不憫でなりません。」
「いいんだダージー。俺達がマヌケだったんだ、ダルク家なんかに仕官しちまったんだからよ。俺達はもう失なう物なんか何もないんだ…俺は暗殺者になってでもディラファンのクソ野郎を殺して家族の仇を討つ!」
「……。」
「…ああ、それより重症者が多いな…。これでは撤退もできん、キキ様、特に酷い者達だけでもよろしいですか?」
「うむ。」
「(ダージー、キキ様は治癒魔法も扱えるのか…?)」
「(ああ、キキ様は下級から上級まで全ての魔法を扱える。更にオリジナル魔法で空も飛べるし他にも色々とあるみたいだ。お前も見ただろう?)」
「(…まさに『テラスの再来』だな…。)」
生き残った32人の隊員をスタスタと見て歩きまた元の位置に戻った。
「キキ様…治せそうですか?」
「キキ様どうか部下達を治してやって下さい!私は結構ですのでせめてあの2人だけでも!」
特に怪我が酷い2人は、片方は顔の半分をドロドロに焼かれていて既に意識はなく、もう1人は内臓破裂しているようで顔色が紫に変色している。
《《私達からもお願いします!!》》
「ふむ…面倒だ。」
「なっ…!そっそんな…!」
「ダージーよ、後ろに退がれ。この部屋にいる者全てにいっぺんに治癒魔法をかける。1人1人かけていては日が昇ってしまうからな。」
「…は!かしこまりました。」
「いや、しかし…それは!お気持ちは嬉しいのですが魔力が足りるはずがありません…30人を1度に治癒するなど聞いた事も…ダージーもすんなり認めてんじゃねぇよ!何とか言え!」
「カライ!キキ様の邪魔をするな、大人しくジッとしておれ。」
ダージーを後ろに退がらせて両手をカライ達に向けて魔力を込める。
金色の光が32人全員を包みこみ軽傷の者はたちまちに回復していき、重症であった2人も5分もかからず起き上がり始めた。
「おおっ!傷が!骨折までも!」
「なんて魔法だっ!凄いっ!」
「神だ!天使だっ!コンジキ姫はやはり『テラスの再来』だったんだ!」
「うむ、皆無事に完治して何よりだ。さて、これからワタシ達はこの『変異の森』を脱出しなければならない訳だ。森の入り口にはワタシの家臣がお前達を保護する馬車と共に明日の夜には着く手筈だ。問題はどう脱出するかだが…カライ、策はあるか?」
「(策はあるか?か…ここまで人外な魔法の数々に森の入り口にも人と馬車を置く準備の良さ、それにさっきの見事な指示…コレは部隊長の俺を試してるのか?だが、何の為に…。)」
「とりあえずコレ以上キキ様方にご迷惑をかける訳に」
「カライ!いらぬ気を使うな。立場等考えず合理的な策を言え。」
「はっ…申し訳ありません。では、
3列で隊を組み先頭に私とキキ様コロナ様、中にカライ隊の面々、最後尾にダージーとタンク様を配置します。
先頭の私の役割は道案内とカライ隊への指示、キキ様には周囲探索魔法での警戒と木々等の障害物の除去及び魔物の討伐、コロナ様にはキキ様との連携と魔物討伐です。
中のカライ隊は恥ずかしながらキキ様方より相当戦力が落ちるので横からの魔物襲撃に備えつつ主に進軍を、タンク様は後方の周囲探索魔法での警戒と魔物討伐、ダージーはタンク様と連携で魔物討伐です。コレが最善かと。」
キキはそれを聞くとニヤリと魂を吸われるような微笑みを浮かべた。
本人は不敵な笑みのつもりだろうがカライ隊の皆は思わず見惚れて赤面していた。
「カライ、上出来だ。では1時間の休憩の後に進軍を開始する。隊列と作戦はカライの策の通りだ。」
仮にも侯爵家の嫡男が、爵位もなく自分の軍の者でもない今日会ったばかりの男の意見をすぐさま採用する、上下身分の厳しいこの貴族世界で。
カライはキキに対して尊敬と恐怖を抱きながらキキという人物が気になって仕方がなくなっていた。
それはカライだけでなく隊員達も同じであろう。
そして『変異の森』脱出作戦が始まるのであった。




