天の使い
食料、武器、馬車などを用意し屋敷の門に集まった6人はキキの到着を待っていた。
キキは自室で書類に目を通していた父親のビージーと話をしていた。
「…なるほどね。それでダルク領に入る許可と馬車を借りたいと。しかし、馬車の数が多いね。」
「ええ。生き残りがいるでしょうから馬車で連れて帰ります。」
「そうか…一応事が事だから王国には報告しておこう。心配はいらないと思うが気をつけて行きなさい。」
「はい、ありがとうございます。では。」
そして皆が待つ屋敷の正面門までいそぐ。
ふむ、皆準備は万端のようだな。馬車は10人乗りが7台か、充分だろう。
「キキ様、恐らくカライがワシに手紙を出してから今日まで一週間近くは経っています。今から馬車で行くとなると2日はかかってしまうので…着く頃には全滅している可能性も…。」
「うむ、それは分かってる。ここからは二手に別れて行く。馬車に乗って行く陸路組とワタシと空から行く組だ。」
「なるほど…。」
「空から行く組は戦場に突撃する事になるから戦闘力を重視する。
メンバーはいち早く魔攻剣を覚えたタンク、コロナ、そしてダージーだ。
残りの者はシャイナを隊長として森の入り口に待機せよ。シルダ、タラムレェインはシャイナに従いつつ森から出てくる獣や魔物を討伐しろ。
逃げ出した兵士がいれば手厚く保護しておいてくれ。」
《《はっ!かしこまりました!!》》
「空から行く組は今から行けば今日の日が暮れた頃には着くだろう。明日の夕方に陸路組は着く予定だ。ワタシ達はカライ達を救出して、森の入り口までできるだけ素早く戻る。では出発せよ!」
「はっ、行って参ります!」
「キキ、無茶しないでね!行ってきます!」
「ご主人様行ってきます!」
向こうはシャイナに任せておけば問題ないだろう。問題は俺達の戦闘だな、飛行しながらタンクとダージーから情報を得て戦略を練るか…。
「ではワタシ達は飛行しつつ戦略を練る。コロナ、半日の飛行は疲れるだろうが頑張って捕まっておけよ。ダージー達は男だ、我慢しろ。
では、行くぞ!」
ダージータンクに腕を掴ませてコロナをお姫様抱っこして飛んでいく。
と言ってもダージーコロナには風魔法をかけて抵抗を下げているのでそんなにはキツくないはずだ。
タンクは魔法ができるから自分でかけさせている。
「どうしたコロナ?顔が赤いぞ?」
「いっ、いえ…。少し恥ずかしいだけです。申し訳ありません…。」
「はっはっは。そうか、やはりコロナも女だな。」
「キキ様、それでどういう段取りで乗り込みますか?」
「うむ、しかし現場を見なければ判断しかねるな。とりあえず現場が見えたら近くにお前達を降ろすからカライと合流して現状を把握してくれ。
ワタシは空から辺りの魔物を広範囲で探索して多ければ駆逐して降りよう。」
「了解いたしました!」
そうして全速力で飛行しながら『変異の森』を目指した。
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キキ達が『変異の森』を目指して飛行している頃、カライ達の100人隊は死闘に次ぐ死闘でその数を40人にまで減らされていた。
生き残った隊員達も満身創痍で、血を流していない者等1人もいない。
ただディラファンだけは碌に服も汚れていない。
「ふっくっくっく。なんだうちの精鋭部隊は弱いなぁ。壊滅寸前じゃないか。」
「くっ…、俺達が死んだら次は貴様の番だよディラファン!たかが中級の魔法使いが2人では生きては帰れないぞ…。」
「ふん。まぁそろそろ教えてやるか。
この森は何故『変異の森』と呼ばれるか知ってるか?」
「なに…?どういう意味だ…なんの話をしている!」
「この森は魔物製造機みたいなもんさ。この濃ゆい瘴気が魔物を生み出しているらしい。
そして、言い伝えによると、この森で人間の生贄を用意して未練や恨みを残して死んでいけば生贄を捧げた人間は魔人の力を得る事ができるらしいのだ。
まぁ眉唾ものの伝説だったんだがな。
100人も生贄は必要なかったが俺は器がデカイ男だ、実験するのも盛大にしようと思ったのさ。はっはっはっはっは。」
「…そんな事のために…クズ野郎め。」
カライ達は虫酸の走る顔で笑うディラファンに飛び掛る体力も失っていた。
ただダルク家に仕えてしまった自分の運のなさを嘆いて俯くしかなかったのだ。
「この恨みは子々孫々まで忘れない…俺達が死んでもきっと…」
「あーっと言ってなかったなぁ?お前達が生きて帰って事が漏れると面倒だったからな。
予め貴様等の家族は皆殺しにしてある。くっくっく、残念だったなぁ子々孫々まで恨みが続かないな?はっはっはっはっは!」
「キッキサマァーーーッ!!!」
「この外道がぁー!!」
その話を聞いた瞬間にカライ達は次々にディラファンに飛びかかってはシールドに弾かれ、2、3人は面倒くさそうに火弾で焼かれた。
「面倒くさいな。ここで終わりにするか?火弾で全部焼き殺すか…ん?」
火弾の詠唱を始めたディラファンに変化が起きた。
黒い魔力が彼に纏わりつき、今までにない力が溢れだす。
「おお!伝説は本当だったのか!これが、魔人の力か、すっ、素晴らしい!」
「なっ、なんだありゃあ…目が赤く…あれが魔人なのか!?」
大昔の戦争で人族に敗れた魔人族はほぼ駆逐され絶滅状態にあるという話だ。
ただ魔人族は存在したという事実は確かであって魔人を見たものなど今の現代では噂にも聞いた事が無く、文献にしか残っていないのだ。
ディラファンのいう言い伝えが本当だったのか、違う原因なのかは分からないが彼は人では無い。
魔物と同じ赤い目に、禍々しい魔力と存在感がそれを物語っておりカライ達は言葉を失っていた。
「素晴らしい魔力だ…そうか私は魔人になれたのか。くっくっく!この力があればキキなど相手にもならんだろう、いや、世界を手に入れられる!魔物を率いて国崩しをしてやろう!」
「…なんて事だ…世界は終わった…。」
「ふっ。お前達にもう興味等ない。そうだな、100匹の魔物を倒せたら後は自由にしていいぞ?はっはっは!俺は国崩しの準備をしなくちゃならんので忙しくなったのだ、もし生き残ったら部下にしてやるぞ?さらばだ!
はっはっはっはっは!」
ついでと言わんばかりに今まで自分を護衛していた魔術師二人の首を素手で捩じ切って、高笑いをあげてもの凄いスピードでその場を走り去って行った。
ディラファンが走り去ると森の中から地響のような音と共に魔物の鳴き声が響き渡り、100匹程の魔物がカライ達を囲んだ。
レッドウルフの群れにフレイムスネーク、泥猪にツリーマン、つち男に赤水熊。
とてもじゃないが、こんな魔物の群れを今の疲弊しきったカライ達では逆立ちしても敵わない。
「隊長…終わり…ですね。」
「ああ…何でこんな事になったんだかな…いや、俺のせいだ…すまない皆。」
「へっ、よして下さいよ隊長。それより魔物に食われて死ぬのは嫌ですね…ブスッといってくれませんかね?」
「バカを言うんじゃねぇよ…仲間を殺せるならここにゃいねぇよ。」
「そうですね、今までお世話になりました。あの世で彼女でも見つけます。」
カライ達が全てに絶望し、自分達が間違っても生き残れないのを悟り、剣を構える体力もなく口を開けて襲いかかってくる魔物の歯並びをボーッと見ていた。
クソッタレな最後だ、隊員達はそう思いながら目を瞑り死を待った。
『キーンッ』
小さくそう音がして、少しヒヤリと冷気がして目を開けると見渡す限りが凍っていた。
自分達に襲いかかってきている魔物の群れも、松明の火も月夜に照らされていた妖しい森も全て凍っている。
生き残った32人は死んで氷の世界に迷い込んだ、そう錯覚するほど見事に凍りついていた。
「なっ、なんだこりゃ…?」
「どうなってる…?何故こんな…氷?」
「これは…魔法か?いや…こんな魔法は…。」
カライ達は状況が理解できずにザワザワと騒ぎはじめて狼狽えていると
「大丈夫か?」
そんな声が天から聞こえた。
そして眩い光が降りてきた。
そこには黄金の光と共に黄金の髪と瞳、そして黄金の翼を風に揺らして氷の世界に降りてきた天使がニコリと微笑んでいた。




