覇者 戦国に散る
「乱、敵はキンカンで間違えないか?」
「はっ!間違えありません!物見よりの報告および拙者もこの目で確認致しました!」
「で、あるか。乱!弓を持てい!!」
信長は寺の中に群がる明智勢に只々無言で矢を射かけた。
淡々とまるで作業のように。
「しかしなぁ、乱よ!こりゃぁ死ぬなぁ!はっはっはっ!」
そう言う信長を蘭丸は好きだった。
欠片にも臆する態度はなく、戦の申し子の様に敵を射殺しながら笑う。
自分が死ぬ事は分かりきってはいるが、とりあえず鬱憤を晴らしているのだ、そしてどう死ぬかを今考えているのだろう。
惚れ惚れする。
これが殿である、これこそが戦国の覇者である。
「ですなぁ!殿、あの世でのご予定はいかがしましょうか!」
「そうだのぅ!閻魔に挨拶するにも首を取られては誰だか分からんからなぁ!よし、乱、寺に火をかけよ!」
「ははっ!では、私も首を残してお供致します!」
寺の中に颯爽と戻って行く二人を見て、明智勢は驚愕していた。
いや、感嘆にも似た感情である。
今から間違い無く、死ぬであろうにも関わらず、笑い話をしながら堂々と歩いている。
弓矢に鉄砲、投槍に火の粉が飛び交う炎の中を当たり前の様に。
戦国の武将とは、侍とは、こうありたいものだと思わせるには充分な姿だった。
そんな二人に誰も、信長の顔を見た事すらもない雑兵ですらも近寄れずにいた。
寺の奥では、何人かの側女達が薙刀をもって寺の中の女を守っていた。
「何をしている。」
「はっ!の、信長様と共に逃げるべくお待ちしておりました!」
「ふむ。よい。そなた達はあの抜け道から抜けよ。共に名物を持って行け、さすれば敵も命までは取らぬだろうよ。」
「のっ、信長様はいかがなされるおつもりでっ!?」
「うむ。乱と共に地獄巡りと致す。さらばじゃ!はーっはっはっはっ!!」
「……お達者で」
そう言うと女達は涙ながらに頭をさげ、皆逃げて行った。
「さて、乱。そろそろ逝くか。」
「と、殿!必ずあの世でもお側にっ!」
「うむ。お前だけは側におれ。」
「ははっ!」
そう言って信長は自分の刀で蘭丸の心臓を正面から刺し、少し横にずらしながら抜いて確実に殺した。
その後蘭丸の亡骸の横でふぅっと一息ついて天井を見上げた。
「ったく。煙たいのぉ。」
「・・最後の最後までやはり裏切りか。」
「まぁよい。あんまり待たせると乱が拗ねるわ。」
そんな子供を見守る親になった気持ちになりながらゆっくりと刀を胸に刺した。
かさぶたを剥がすようにゆっくりと。
意識が無くなる時、淡い花のような匂いがした。




