それぞれの思惑
ロックマウンテンを倒した俺達はタンクに周囲索敵をさせながら岩山の調査を続けていた。
俺は土魔法を使い鉱山であるかを選別していたがまず、間違いなく鉱山であるとタンクは言っている。
鉱山じゃないとロックマウンテンのような中位の岩系の魔物は発生しないからだ。
という事は、キチ草原からこの鉱山までの魔物を掃討して森林を伐採して土魔法で境目に壁を作れば鉱山の採掘は出来るわけだ。
魔物を掃討しながら皆の戦闘レベルを上げて、尚且つその素材を売って金も稼げるし、木々も業者に買い取って貰えるだろう。
「よし、この岩山が鉱山である事は土魔法の探索でも分かった。調査は終わりだ、戻って昼食にしよう。」
「そうですね、またいつ魔物が現れるか分かりませんし取り敢えず戻って話し合いましょう。」
そうして俺はまたコロナを抱きかかえてシャイナとタンクを腕にぶら下げてキチ草原のダージー達の元へと飛び立った。
「あっ、キキ様達が帰ってきたにゃ!」
「キキ!おかえり!どうだった?」
「ああ、思った通り鉱山だったぞ。それから岩ゴリラを倒してきた、ほら、戦利品だ。」
「ほー、魔物が出した鉱石ですな。
岩系の魔物はワシら剣士とは相性が悪い相手ですがキキ様にかかればお茶の子さいさいでしょうな。」
「はっは、筋肉ダルマでダージーに似てたから少しとまどったぞ。だが戦いの経験を積むいい機会だった。とりあえず昼飯にしよう。」
「……ええー…」
今日の昼食は森から草原に出てきてダージー達に狩られた豚と猪の焼き肉と屋敷から持ってきたパンとシャイナが即席で作った野菜スープだ。
シャイナとコロナの女子2人が料理をしながら食事の準備をする。
タラムレェインも女だが料理はからっきしみたいで、とにかく肉を焼けば完成といった具合で、初めのうちは料理を手伝っていたが今はシャイナに断わられている状態だ。
同じく最初から料理なんてする気もないシルダと共にナイフとフォークをカチカチ鳴らしながら鼻歌を歌い椅子に座って足をバタつかせている。
食事を終えた俺達は紅茶を飲みながら休憩をし、ミーティングに入る。
「あの岩山は鉱山だった訳だがコレを放置する手はないだろう。そこで岩山までを森林伐採しながら魔物を掃討して行こうと思う。異論は?」
「わざわざ討伐して森を開拓して行かなくてもキキが空を飛んで、岩山で魔法を使って鉱石を取ってくれば良いんじゃないの?」
「それも出来なくはないがそれでは未開地開放にはならんからな。業者を入れて開発を進めさせるには魔物がいてはできんだろう。」
「ふーん。」
「それにここにいる全員で討伐をして行けば皆の戦闘レベルも大いに上がるであろう。金も入るし強くもなれる最高の仕事だろう?」
「それもそうね!アタシは強くなれればそれでいいわ!」
なんとも気持ちのいいアッサリとした性格だなシルダは…。まるで前世で俺の妹だったお市のようだ。
「だが、まだ魔攻剣を習得できた者はいないわけで少々心もとないのも事実だ。後半年、そうだな…ワタシの誕生日辺りを期限とし、その日を境に魔物討伐を開始するとしよう。」
「必ず習得してみせますキキ様!」
「すごい気合いねコロナ!アタシも負けないわ!」
「私も負けないにゃ!」
「うむ、では各々精進するように!(…にゃって聞こえた。)」
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キキ達が再び修業を開始して3カ月程たった頃ソアラ国王都の城中では偵察隊による報告が行われていた。
その席には王女を中心に、軍事総司令官、財務長官、ソアラ国テラス教の枢機卿などこの国のトップ連中が同席している。
五大国での王の力は絶対的であり、完全な中央集権国家である。
ここソアラ国の現王は女王であり、彼女は優れた政治手腕もありカリスマ性も持ち合わせていた。
キキ程では無いが綺麗な金髪を持ち、その瞳は青く所々金色が混じっている。所謂、何百年かに1人に数えられる素質の持ち主だ。
第172代ソアラ国女王の
クリスティリアン=ウル=ラプルーシ=ソアラ
である。
「…続いてダルク領内の報告です。コユーア領との境目の『変異の森』を開拓し始めている様子で、その部隊を率いるのはダルク領主嫡男のディラファン殿のようです。」
「あら、仕事熱心な嫡男さんだこと。お父様のドルギラン殿も将来安泰ですわね。
しかし…『変異の森』は魔物の巣窟でもあり、古くから火龍の住処と云われる手付かずの森のはず。それに見合った実力者はおありで?」
「いえ…恐らく失敗に終わるかと。推測ですと隣のコユーア領主の嫡男のキキ殿に張り合っての行動かと…。」
「噂のコンジキ姫ね?彼は確かキチの森の開拓と修業を兼ねているとか?」
「はい、キキ殿は噂では元々剣術指南であったダージー殿と魔法指南であった元王国魔術師団長のタンク殿を弟子にとる程の実力者と聞きます。
少し前の物見の報告によると、ほぼ単独でロックマウンテンを撃破したと…」
そこで同席している王国軍総司令官のウルブラクが口を開く。
「それはデマであろう?ダージーはまぁそこそこの実力者でもあったがタンクは稀に見る天才でワシが22歳で師団長の座につけた程の男だぞ?まぁ女癖が原因で首にしたが…。その2人が6歳にも満たない子供の弟子になっただと?
それにやはり6歳にも満たない子供が中位に当たる魔物を単独撃破とは信じられん。」
「それと…もう1つ……キキ殿が天使になって空を飛ぶ姿を見たとの報告が…。」
『………。』
「…キミィ。この世界ただ1つの宗教であるテラス教を馬鹿にしとるのかね…?」
「まぁまぁ枢機卿様。あくまで噂ですから。
しかし…確かキキ殿は完全なる黄金の瞳と髪を持つと国内中の噂になってますし…。
それに剣術大会の時にダルク家から苦情も出ていますね、真意の程は分かりませんが殺されかけたとか…」
「とにかく今は監視を続けましょう。民衆の支持も高く4大領主の嫡男ですからおいそれと判断は出来ません。王国に仇なす輩であれば罰しますが今は様子見です。
私としては民衆の評判の悪いダルク家の方が気になりますね。」
そうして王国の会議で今のところ様子見を続けるという結論にいたった。
『それにしても黄金の瞳と髪を持つコンジキ姫ですか……彼の存在が気になりますね。
一度城に召集をかけてみてこの目で確かめてみるのも手かもしれませんね…。』
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その頃ダルク領内の『変異の森』入り口ではダルク家の所有する軍の精鋭100人が待機していた。
「ディラファン様、隊の準備は整いましたが如何にして森を開拓なさるおつもりですか?」
「そんな事はお前如き隊長風情が口を挟むんじゃない!この領地は俺の物だ!そしてこの隊も俺のもの!
とにかく森を焼き払い魔物を討伐して進めばよいのだ!」
「…はっ、畏まりました。(この能無しのボンボンが!)」
「フッフッフ!見てろよキキ!火龍を我が物にしてコユーア領地に放してくれるわっ!」
そんな邪悪なディラファンの思いを修業に明け暮れるキキ達は知る由も無かった。




