ついに飛ぶ
修業を初めて一年がたった頃、俺は新しい魔法の開発を進めていた。
「タンク、あの岩山は鉱山だと思うか?」
「うーむ、何とも言えませんねぇ…しかしコユーア領内は鉱山が多いので可能性は高いと思います。」
「何とか確かめたいものだな…」
キチ草原から岩山を見上げる俺とタンクはどうにか岩山を調べられないかと話していた。
しかし、岩山に行くには魔物の住む深いキチの森を抜けて行かなければならない。
そして岩山にも魔物がいる可能性が高い。
歩いて調べに行くにはそれなりの準備と戦闘力がいるのだ。
「タンク、お前は空をとべるか?」
「はっはっは、寝ぼけてベッドから落ちた事なら何度もありますね」
「そうか、では今日は空を飛ぶ魔法を練習しようか。」
「……キキ様、冗談…ですよね?」
「ふっ。タンクよ、分かっているんだろ?」
「……俺、今日で死んじゃったりしちゃいますかね…?まだ女遊びしたりないなぁ。」
「では、成功した暁にはシャイナを1日デートに連れて行く事を許可しよう。ああ、オマケに妹のコロナもつけてやる。くっくっく。」
「キキ様……酷い…!シャイナとコロナは1番無いですよ!」
そんな冗談話をしながらシャイナ達が訓練している所から見えないように土魔術で10メートル程の壁をつくる。
シャイナとコロナはタンクをまるで信用していないらしく、俺に危険な練習をさせないかいつも横目でタンクを監視しているのだ。
と言っても大抵は俺が無理矢理魔術の練習をやりタンクに迷惑をかけているのが真相だ。
ーーーーーータンク視点ーーーーーー
ヤバいキキ様がまた何かとんでもない事を言い始めた。
普通なら、
森の奥の岩山を見に行きたい→でも魔物が沢山いて危ない→よし、皆のレベルが上がるのを待って戦闘力を整えてから見に行こう!
これだ。普通ならこうなんだ。
だけどキキ様は違う。
森の奥の岩山を見に行きたい→でも魔物が沢山いて危ない→よし、空飛んで行こう!
これだ。
もの凄い発想力と決断力と行動力なんだよなぁ。
半年前の魔攻剣を見た時もそりゃぁ驚いたぜ、何たって新しい魔法の歴史を作っちまったんだから。
腐っても俺は、元王国魔術師団長だった男だ、ソアラ国で1番の魔法使いの自負があったんだがキキ様の前じゃ石ころもいい所だよ。
さぁてどうしたもんかな、キキ様が危ない事してるのに俺が止めないとシャイナにフライパンで頭のテッペンをたいらにされちまう。
「これで向こうからは見えないから安心しろタンク。」
高さ10メートルに長さが50メートルくらいの土壁ねぇ……普通はこれで魔力が枯渇しちゃうんだけどなぁ……。
しかもこんな壁作っちゃったら危ない事してますよと言わんばかりなんだがなぁ。
キキ様はああ見えてイタズラ好きだしこれはわざとかもしれん。
「キキ様、飛ぶと言ってもどうされるおつもりです?風魔法の応用とかですかねやっぱり?」
「風魔法で人を浮かせる事はできても自由に飛ぶ事はできないみたいだな、竜巻を起こして体を持ち上げても息ができないし体を空中で自由に動かすのは困難だな。
まぁ試行錯誤してみるからタンクはアドバイスとサポートを頼む。」
「了解致しました。」
どうやら本気で空を飛ぶ気みたいだ。
しかし、死に至る病までものの5分程で治してしまうお方だからな、万が一にも成功するかもしれんから恐ろしい……。
まぁ、俺まで一緒に飛ばす気は無いみたいだし死ぬ事はないだろう。
まだまだ女遊びざかりの20代で死にたくないからな。
それにしてもキキ様には驚かされるが魔法の師匠としても優秀だ。
無詠唱魔法が使えるキキ様はこの一年で火弾、雷弾、氷弾、土弾、風弾などを一度に発動できるようになった。
「はぁーすげぇー…」
と感心していると、
「お前達もできるのではないか?
詠唱をして弾を発生させて、留まらせておくんだ。その間にまた詠唱をして弾を発生させて放つ。
留まらせるコントロールを練習してみろ、使えるようになれば大勢の相手をする時に便利だろう。」
なるほどなぁ。無詠唱魔法が使えるからこそのアイディアと発想力かもしれない。
この半年で魔攻剣の練習と別に練習してみたが何とか3つまでは弾を留まらせる事ができた。
それ以上はいくら天才と言われた俺でもコントロールできなくて暴発させてしまうのだ。
しかし、キキ様抜きだとコレは歴史的に名を残す魔法使いとして崇められてもおかしくない事だと思う。
この人といれば強くなれるし、燃えるようなあの眼を見てると何かこうワクワクするんだよな、これからすげぇー事が起きて、きっとキツイけど楽しいんじゃないかって。
「くっ、中々上手くいかんな…タンク何かいい方法はないか?」
「うーん。空を飛ぶという発想が私にはありませんでしたからねぇ、人が飛ぶのなんて勿論見た事無いですし。
確かにキキ様は天使の様な美しい姿ですがさすがに空までは飛べないのでは…」
あっ、やべぇキキ様の顔色が変わった!
睨まれてる…。あ、睫毛長いなぁ。確かにダージーさんの言う通りこの怒った顔も何かいいかも…。
しかし、どうしよう怒らせちゃったか…?
「タンク!」
「はっ、はいっ!申し訳ございませんっ!」
「何を謝っている?それより天使とは空を飛べるのか?どうやって飛んでるんだ?」
「えっ?い、いやだって、天使様っていったらこう白い服着て、凄い美人な人で背中に翼が生えてて天から降りてくるものでしょう…?勿論見た事ないですけど…。
でも絵とかにはだいたいそんな感じで描かれてますよ?」
「………ああ、うちの屋敷にも飾ってある絵の女か…なるほど…翼か。」
あれ?この人翼生やす気?
いや、いくら何でも自力で翼は生えてこないでしょ…。
「タンク、いいアイディアだ!流石は元王国魔術師団長、大義であった!」
…褒められた。思わず口元が緩んでニヤけてしまう。
何故なんだろう、キキ様に褒められると
「ああ、生きいてよかった、この人に尽くしてよかった、この人と一緒にこの人の為に生きていきたい」と思える。
キキ様は、人を従える才能も持っているのか。
そんな事を考えていると、さっきまで風魔法で泥だらけになりながら練習していたのに今度は、ジッと立ったまま何かブツブツと言って目を閉じている。
「…背中から翼…大きさは……でかい方がいいか…膜を……イメージ……ああっ違う…こう…くそ…」
…なんだ?精神統一して空を飛ぶイメージか?
しかし諦めない人だなぁ。すげぇ集中力だ…
「くそっ!タンクっ!あの鳥を狩ってこい!」
「はっ、はい!!」
なんだ?鳥を狩ってこいって…お腹空いたのかな?
ふっ、かわいいなぁ集中してお腹が空いちゃって鳥肉食べたいんだなきっと。
やっぱりこういう所はまだ子供なんだな。
心の中でホッコリしながら鳥に向かって小さな雷弾を詠唱して放つとグェッと鳴いて気絶して落ちてきた。
この鳥はシマ鳥といってシマ模様が特徴で焼き鳥に最適だ、念のため後2、3羽狩っておくか。
「キキ様ぁ!狩ってきました!では捌きますので少々おまちを…」
「バッ、バカ!そのまま持ってこい!捌いたら翼がよく分からなくなるだろ!」
あ、なるほど翼の仕組みを勉強するのか。
しかし鳥を見た所で背中に翼は生えてこないと思うけどなぁ…。
キキ様はシマ鳥の翼をマジマジと見ながら
「ほー、なるほど…」と、呟いたと思ったらぽいっとシマ鳥を投げて、また目を閉じてブツブツと言いながら精神統一しているようだ。
少しすると、黄金の魔力がキキ様の全身を炎のようにゆらゆらと包み始めた。
だんだんと胸の辺りに纏まって小さくなって、最後には消えてしまった。
「あれ?何だったんだ?」
と首を傾げているといきなりバサッとキキ様の後ろから大きな翼が現れた。
いや、翼の形をした黄金の魔力のかたまりだった。
俺は自分の目に映るものを処理しきれずに目を見開いて呆然していたのだと思う。
そんな呆然としているであろう俺を見て、ニヤリと微笑む黄金の翼の生えたキキ様は天使そのものだった。
そして俺からプイッと目を離すと土壁の中をもの凄いスピードで飛びまわって
「ハハハッ!見たかっ!何がキキ様でも空は飛べないだ!ハーッハッハッハ!」
とハシャギまわっている。
やっぱり聞こえてたんだ…。
黄金の翼を生やし空を飛ぶ、もう意味が分からん。
俺にもやってみろと言われたが、俺にはそんな莫大な魔力も魔力を具現化するなんて事も絶対にできない。
多分世界中の誰もできないよ。
「よしっ!もう日が暮れるから岩山には明日行くとしよう。タンク、その鳥をもってシャイナ達の所に戻ってろ。」
「あれ?キキ様は行かないんですか?」
「ふっふっふ、ワタシは空を飛んであいつらを驚かせてやるのだ!だからお前は歩いてこいよ。」
「…いや、私は空飛べませんから…歩いていきますよ。」
空を飛んで向こうに行くのか…
こりゃあ今日はシャイナのヨダレがとまらねぇだろうな。




